都立高「制服化」の波に懸念の声 「大人が若者を思考停止させている」 (1/2) - AERA dot. (2018年5月1日)

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都内の公立小学校がイタリアの高級ブランド「アルマーニ」がデザインした制服を導入し批判された。他方、都立高校でも制服化の波が押し寄せている。ここ十数年で、私服だった20校近くが制服や標準服を導入。なかには、有名百貨店でのイージーオーダーという学校もある。

「親は既製服しか持たないのにと驚いた。制服のほうが経済的という声もあるけれど、今は安価なファストファッションはいくらでもある」と、1980年代に都立高校で私服ライフを楽しんだ50代の母親は憤る。

東京都教育委員会によると、都立高校186校(島しょ部を含む)のうち全日制・普通科では私服校が10、式典時の着用が定められている標準服校が9校ある。

都内に住む50代の女性公務員は、次男(20)が卒業した都立私服校が昨年「髪染め禁止」になったと聞き心がざわついた。当時の校長が入学式で、「この学校には校則はありません。校則がないことをかみしめて3年間過ごしてほしい」といった趣旨のことを語り、他の父母と「さすが生徒の自主・自立を掲げた学校だね」と喜び合った。

学校の自由な雰囲気が好きだった。体育祭や文化祭ではクラスカラーに髪を染め盛り上がる。だが、部活動の大会や沖縄への修学旅行に行くまでには全員黒に戻した。「(沖縄の)ガマと呼ばれる防空壕に入るとき、戦死者に失礼にならないか」と教師に問われたと聞いた。

「自由を手に入れることは責任を果たすことだと自然に学ぶ。私服で過ごす意味は大きい。校則を増やして制服に移行しようとしているのでは」と心配する。

長女(18)がこの春、私服の都立高校を卒業した40代の男性会社員は、「娘が在学中、新しく赴任された校長先生がいきなり制服化委員会みたいなものを立ち上げて、対応が大変だったと妻から聞いた。進学実績は順調にアップしている学校なのに」と首をかしげる

一部とはいえ、都立高校はなぜ制服化しているのだろうか。
東京大学大学院教育学研究科教授の小国(こくに)喜弘さんは「日本社会の保守化と関係している」と感じている。

「よく見れば、高偏差値のトップ校は私服で、偏差値中位の学校がどんどん制服になっている印象はぬぐえない。どの学校も管理強化に向かっているのではないか。それを保護者も歓迎する。労働組合が弱くなるなか、雇用の保障がされない状況で親のほうも保守化が進んでいるからだろう」

一方で、制服や校則による管理で子どもが成長すると考えていない保護者や、一部の教員は「私服校の自由な空気を守りたい」と望んでいるようだ。例えば前出の男性会社員の長女が卒業した私服校では、PTAや卒業生の親たち、教員らが「きちんとした話し合いをすべきだ」と抵抗。その時点では制服化がまぬがれた。

都教委は制服導入について、「最終的に決定するのは校長。保護者の負担や導入の目的を学校経営計画によって明らかにしたうえで、教職員、生徒、保護者の意見を聞き、同意のもとで決めている」という。

であれば、すでに制服のある学校も毎年「制服会議」を開き、議論してはどうだろう。

小国さんは「小中高の公立で制服が存在すること自体おかしなこと。子どもたちの表現の自由を侵しており、決して民主的ではない。その意味で、アルマーニと都立高校の制服化は同じ問題だ。文部科学省は自分で考えられる主体性のある人材の育成をと強調しているのに、現実の教育は逆行している」と話す。

2016年に都教委が制服調査をした後の文教委員会に出席した前都議会議員小松久子さんによると、都教委側は「制服の導入が生徒や保護者から大変喜ばれているとの報告を学校から受けている」と満足そうだったという。もともとは制服だった都立高校で70年代、自由主義の流れで生徒たちの手によって制服廃止が広がった。だが今、都内で選択制の学区で公立小学校に制服化の傾向があるように、都立高校も単に「選ばれるため」の制服導入になってはいないか。

「私たちは制服が嫌で仕方なくて自由を求めた。でも、今の子は制服を押しつけられても、自分が型にはめられていることに気づかず疑問に感じない。大人が若者を思考停止にさせている」と小松さんは不安を隠さない。

私服の都立高校を卒業した女子大学生(18)はこう話す。

「勉強ができないって判断した子はがんじがらめに管理する。先生は偏差値や見た目だけで判断して、実際は生徒を信じていないんだと思う」

ぜひ制服会議をやってほしい。本音で語り合わなくては、本質には近づけないのだから。(ライター・島沢優子)