https://mainichi.jp/articles/20181208/ddm/005/070/140000c
http://archive.today/2018.12.08-012552/https://mainichi.jp/articles/20181208/ddm/005/070/140000c
国の将来を左右する重大なテーマについて審議を尽くし、全体的な合意を図る自覚が今の国会にあるのだろうか。強い疑念を覚える。
外国人労働者の受け入れ拡大へ向けた入管法改正案が参院本会議で可決され、成立する。
委員会での審議時間は衆参両院でわずか38時間だった。カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法を先の通常国会で成立させた際も与党は審議を急いだが、委員会審議は40時間を超えていた。それと比較しても入管法改正案の扱いは軽すぎる。
法案についての自民党内の事前審査は紛糾し、法務部会の開催は6回に及んだ。それだけ重大な法案だと自民党も認識していた。ところが、おざなりな国会審議で済ませた背景には、深入りして議論したくない事情があったと考えざるを得ない。
第一に指摘できるのは外国人労働者の受け入れ拡大を嫌う右派の存在だ。安倍晋三首相のコアな支持層であり、国会で自身が答弁する場面をできるだけ減らしたいという思惑が働いていたようにみえる。
もう一つは法案の構造的な欠陥だ。来年4月の統一地方選で人手不足対策としてアピールはしたいが、入国管理政策の転換と位置づければ支持層の離反を招きかねない。そう考えた結果、問題の多い技能実習制度を土台とする応急的な制度の立て付けになったのではないか。
「議論したらキリがない。いくらでも問題点が出てくる」と衆院法務委員会の自民党理事が漏らしたのは本音だろう。参院法務委では与党が約1時間の質問時間を放棄した。
「安倍1強」のもと、首相の意向を与党が優先し、国会を軽んじる傾向は年々強まっているが、ここまで露骨に審議を空洞化させて恥じないのは、明らかに立法府の危機だ。
そもそも法案が具体的な制度設計を法務省令に委ねているのは致命的だ。見かねた大島理森衆院議長が法施行前に制度の全体像を国会に報告するよう求めたのは一つの見識だが、それで済む話ではない。
技能実習制度を段階的に廃止し、就労目的の在留資格に一本化すべきだ。外国人への生活支援や日本語教育なども含む総合的な政策パッケージを早急に法案化し、来年の通常国会で徹底審議することを求める。