入管法の審議 共生の思想に欠ける - 東京新聞(2018年11月14日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018111402000180.html
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外国人労働者を受け入れる入管難民法改正案の国会審議が始まった。初年度から約四万人も受け入れるのに、生活や賃金、教育などの論点が不透明すぎる。来年春からの導入はあまりに拙速だ。
日本は移民を受け入れるのか−。臨時国会では、まずこんな議論からスタートした。安倍晋三首相は「移民でない」と否定したが、従来は高度な専門人材に限っていた外国人の受け入れを単純労働者に広げる制度である。安倍首相の答弁では、アナウンスなき政策の大転換になりうる。まず、それを強く懸念する。
政府の想定は来年度から五年間で約百三十万人台の労働者が不足する。日本の人口減による深刻な人手不足である。だから同年度は、建設や介護、農業など十四業種で三万三千人から四万七千人の外国人の受け入れを見込む。
在留資格「特定技能」の1号と2号の合算数だ。だが、心配なのは技能実習生制度の二の舞いにならないかという点だ。昨年中に約四千二百事業所で、長時間労働や賃金不払いなどの法令違反があった。七千人を超える実習生が失踪した。使い捨て同然にしている実態が数字でよくわかる。
奴隷的な労働と同じ構造を持つ制度を撤廃することなく、外国人労働者の受け入れ拡大に方向転換できるのか。まず同制度の廃止から議論のスタートとすべきだ。
とくに技能実習生の場合には入国時にブローカーらが暗躍するケースがあった。「特定技能」の者には国の機関などが職業紹介しないと同じ轍(てつ)を踏みかねない。送り出し国との二国間協定を結び、政府が責任を持つのが前提だ。
劣悪な労働環境を排することをどう構築できるかも未知数だ。法務委員会で山下貴司法相は「スキルを持つ外国人に活躍してもらう」と述べ、「安価な労働力」との見方を否定した。本当なのか。
低賃金の外国人が増えれば、共に働く日本人の賃金減も招く恐れさえある。待遇に不平等があれば、社会での分断も起きよう。
来日すれば生活や社会保障、教育などの問題が待ち受ける。それらを解消する施策はほとんど語られていない。単なる在留資格だけにとどまらぬ問題だ。
政府案に欠けるのは、共生の思想であろう。それなのに「来年四月施行」というスケジュールはあまりに急すぎる。法案の「差別的取り扱いをしてはならない」規定をどう具現化するか。腰を据えた議論がいる。