(失踪実習生誤データ)国会審議の前提崩れた - 沖縄タイムス(2018年11月19日)

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外国人労働者の受け入れを拡大する入管難民法改正案を巡り、衆院法務委員会の審議入りが延期となった。
失踪した外国人技能実習生を対象に、法務省が実施した調査結果に重大な誤りがあったからだ。またしても政権に都合の悪い情報を隠そうとしたのではないかとの疑念が消えない。
失踪後に同法違反容疑で摘発された技能実習生2870人に対し昨年調査し、概要を今国会で示していた。
当初、全体の約87%が「より高い賃金を求めて」失踪したと説明していたが、実際は約67%が「低賃金」が動機だったと訂正したのである。
失踪動機の選択肢にあった「低賃金」「契約賃金以下」「最低賃金以下」の3項目のいずれかにチェックを入れた人を、選択肢にはなかった「より高い賃金を求めて」という新たに作った項目に一括して集計したという。
法務省は「担当者の理解不足」と強調するが、にわかには信じがたい。「改ざん」といわれても仕方がない。
訂正後の集計では、月額給与10万円以下が半数以上を占めた。安い労働力として技能実習生が使われている実態が浮き彫りになった。
失踪動機として「指導が厳しい」が5・4%から12・6%に、「暴力を受けた」も3・0%から4・9%に増えた。暴力やハラスメントといった劣悪な労働実態を隠蔽(いんぺい)する意図も見え隠れする。
法務省は誤データを作成するに至る経緯を徹底検証し、公表する義務がある。

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法案を議論する前提となるデータの誤りは今年2月、働き方改革関連法案でもあった。安倍晋三首相は「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方に比べれば一般労働者より短い」と答弁していたが、厚生労働省のデータに疑義があることが判明。裁量制の拡大は働き方改革関連法案から削除された。
森友学園へ国有地が大幅に値引きされて売却された取引を巡っても財務省が決裁文書を改ざんしていたことが明らかになった。
公文書をないがしろにするのは安倍政権のあしき特徴である。技能実習生のデータも本来なら、解決を図るべき多くの課題を示しているのに、逆に隠そうとしているとしかみえない。
外国人労働者の受け入れ拡大は社会を大きく変えることにもつながる法改正である。人手不足が深刻だからといって産業界の求めに応じ、結論ありきで進めてはならない。

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政府は、外国人労働者の受け入れ見込み数と業種をようやく提示した。同法が改正されれば、2019年度から導入される新たな在留資格で、5年目までに累計で14業種、最大34万5150人を受け入れる。ただ数字は業界の推計を積み上げたもので積算根拠が不明確である。求められる技能などの受け入れ要件も固まっていない。
新制度で受け入れを見込む外国人のうち初年度は5〜6割が技能実習生からの移行を想定している。
問題の多い技能実習制度の見直しをせず、新制度を導入するのは混乱を招くだけだ。