(私説・論説室から)自由を蝕む軍事研究 - 東京新聞(2018年10月29日)


http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2018102902000139.html
https://megalodon.jp/2018-1029-0912-06/www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2018102902000139.html

そこまでは気が付かなかった。そう痛感する話を先日、聞いた。東京の日本学術会議のフォーラム「軍事的安全保障研究をめぐる現状と課題」でのことだ。
防衛装備庁が二〇一五年度から防衛装備(兵器)開発につながる基礎研究の公募を始めた。戦争の反省から「軍事研究は行わない」との声明を出していた学術会議は昨年春、大学や学会などに「ガイドライン等を設定する」ことを勧めた。基本原則や方針を今春までに定めた国公立大学は41・2%。二割強の大学が検討中、つまり様子見だった。
フォーラムで渡辺芳人名古屋大教授は「議論するのは難しくない。過半数は『軍事研究はしない』にいくと思う。しかし、機関決定して公表するときは文部科学省を含めた評価など、リアクションを考える」と発言した。
秋季年会のプログラムの中で取り上げた日本天文学会の柴田一成会長は「将来があるのでニュース映像では若手の顔は隠してもらった」と明かした。軍事研究は学問の自由だけでなく、言論の自由さえ脅かしている。
戦争を知る世代の宮沢喜一元首相は著書「新・護憲宣言」で「自由はある日突然なくなるものではない。それは目立たない形で徐々に蝕(むしば)まれ、気がついたときにはすべてが失われている」と振り返り「自由の制限につながる兆候を監視する必要がある」と警告している。 (井上能行)