INF条約離脱 核軍拡を阻む新合意を - 東京新聞(2018年10月23日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018102302000179.html
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核軍拡の歯止めがなくなる恐れがある。トランプ米大統領が中距離核戦力(INF)廃棄条約からの離脱を表明した。日本の安全保障環境の悪化も懸念される。核軍縮へ新たな国際合意が必要だ。
米国が旧ソ連と結んだ核軍縮条約を破棄に追い込んだ例としては、ブッシュ(子)政権が二〇〇一年、ミサイル防衛計画の足かせになっていた弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの離脱を通告したことが挙げられる。
その時もロシアの反対を押し切り一方的に離脱へ走った。だが、INF条約の場合、かつてはロシアの方が破棄を望んでいた。
ブッシュ(子)、オバマ両政権で国防長官を務めたロバート・ゲーツ氏の回顧録イラク・アフガン戦争の真実(邦訳)」によると、〇七年に会談した当時のイワノフ・ロシア国防相は、射程五百〜五千五百キロの中・短距離核ミサイルの全廃を規定したこの条約について「米ロの二カ国のみがこのようなミサイルを配備できないというのはおかしい」と主張した。
そのうえで「中距離弾道ミサイルを西側に展開するつもりはないが、南と東、つまりイラン、パキスタン、中国に対しては配備したい」と告げた。
これにゲーツ氏は条約を破棄したいのなら「ご勝手にどうぞ。米国は条約破棄を支持しない」と応じた。
トランプ氏も離脱の理由として、ロシアの条約違反に加えて中国の戦力増強を挙げた。条約に縛られる米ロを尻目に、中国のミサイル開発は著しい。この四月には、米軍基地のあるグアムを射程に収め「グアム・キラー」と呼ばれる「東風26」の実戦配備を明らかにした。
だが、中国に対抗するためとはいえ、INF条約から離脱するのは乱暴である。影響も深刻だ。米ロ間ばかりか米中間でも軍拡競争を招きかねない。東アジアの緊張が高まり日本にも脅威になる。
半面、INF条約が調印された冷戦末期とは異なり、技術拡散は進んで北朝鮮やイランなどもミサイルを保有する。米ロだけの二国間条約がこの現状に合わないのも事実だ。
ミサイル開発・保有にたがをはめる新たな多国間条約を考える時期に来ている。道は長く険しいだろう。それでも、INF条約という画期的な軍縮を成し遂げた米ロが、この実現へ主導的な役割を果たすよう望みたい。