[米ミサイル実験]軍拡競争時代に戻すな - 沖縄タイムス(2019年8月26日)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/462266
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再び冷戦時代に逆戻りさせるつもりなのだろうか。
トランプ米政権が射程500キロ以上の地上発射型巡航ミサイルの発射実験に踏み切った。
米ロの中距離核戦力(INF)廃棄条約が失効してからわずか16日後である。暴挙というほかない。
国防総省によると、カリフォルニア州サンニコラス島から発射され、条約が禁じていた射程500キロを超える標的に命中させたという。
ロシアはトランプ政権が「かなり前から開発していた明らかな証拠だ」と指弾した。
発射実験を受けて開かれた国連安全保障理事会の緊急会合でもロシアや中国は条約を破棄した米国を批判。米国は中ロが条約で規制されたミサイルを開発していたと非難するなど、対立の構図が浮き彫りになった。
プーチン大統領は「同様のミサイルの開発を再開する」と表明した。
米国による欧州への中距離ミサイル配備を警戒して、地上発射型の極超音速中距離ミサイルや、海上発射型の巡航ミサイルの地上発射型を開発するよう指示している。
米国は11月には、中距離弾道ミサイルの発射実験も計画しているという。
エスパー米国防長官は日本を含むアジア太平洋地域へ中距離ミサイルの配備に言及している。
条約は冷戦終結を象徴し、核軍縮の潮流をつくった画期的なものだった。
条約が失効し、軍拡に軍拡で対抗する「安全保障のジレンマ」に陥ることが現実のものになろうとしている。

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米国の念頭には中国の存在がある。中国が米ロの条約に縛られなかった間に世界最大の中距離ミサイル保有国となっているからである。米国が条約を破棄した大きな理由の一つもそこにある。
エスパー氏が議会公聴会で「ロシアだけでなく中国にも対処するため」と証言したことからも明らかだ。
中国は「空母キラー」と呼ばれる対艦弾道ミサイルや、米領グアムに届く「グアム・キラー」の中距離弾道ミサイルを配備している。
グアムや、米軍基地が集中する沖縄を含む日本全体を射程に収めているのである。
米国のミサイルが配備されれば中ロ、それに北朝鮮を加えた軍拡競争がエスカレートするのは間違いない。北東アジア地域の緊張が一気に高まり、不安定化するでろう。

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米ロ間の核軍縮条約は2021年2月に有効期限を迎える新戦略兵器削減条約(新START)が残るが、米国は延長に後ろ向きだ。延長できなければ米ロの2国間核軍縮条約はなくなり、核軍拡に歯止めがかからなくなる。
米国は安保理でINF条約に代わりロシア、中国の3カ国による新たな軍縮の枠組み創設を訴えた。米国のミサイル開発や今後の発射実験、「使える核」としての小型核の開発と矛盾しており、創設の意図が本気かどうか疑問だ。
日本は世界の非核保有国と連携し、軍縮の流れを後退させることがないよう外交努力を尽くしてほしい。