(余録)沖縄の古謡集「おもろさうし」には「セジ」という言葉が… - 毎日新聞(2018年10月3日)

https://mainichi.jp/articles/20181003/ddm/001/070/176000c
http://archive.today/2018.10.03-001819/https://mainichi.jp/articles/20181003/ddm/001/070/176000c

沖縄の古謡集「おもろさうし」には「セジ」という言葉がよく出てくる。国王がセジを得るように祈る歌には「戦(いくさ)セジ」「百(ひゃく)歳(さ)セジ」「世添(よそ)うセジ」などさまざまな種類がある。このセジ、霊力のことなのだ。
戦セジとは戦勝をもたらす霊力、百歳セジは永遠の命を保つ霊力、そして世添うセジとは世を保護し支配する霊力という。セジは人や物がもともと備えているのではない。天と地の間にあって、何かの拍子に人や物に宿る霊力なのだ。
先日の沖縄県知事選では翁長雄志(おなが・たけし)氏から基地移設反対を引き継いだ玉城(たまき)デニー氏へ、世添うセジはすんなり移行した。地域振興策を人質に基地の移設を進める政府に対し、沖縄の誇りと意地を掲げて霊力を蓄えた翁長氏の遺産である。
ひるがえって自民党総裁選で3選を果たしたばかりの安倍晋三(あべ・しんぞう)首相には出だしからのつまずきである。総裁選での党員票の伸び悩みもこれあり、来年の参院選をにらんで首相の政治的霊力を値踏みする党内外の視線も厳しさを増そう。
その第4次改造内閣財務相官房長官らの骨格は維持しながら12人が初入閣、女性は何と1人の陣容となった。各派閥の入閣待機組の受け入れや盟友・側近重視の人事は、党内に潜むリスクを避けて霊力の消耗を防ぐ狙いのようだ。
つまりは参院選、また改憲を狙った布陣だろうが、野党も新閣僚の資質や女性1人の陣容など突っ込みどころには困るまい。むろん参院選セジの宿り先を決めるのは、その間の一切を見つめる国民である。