自分は「私小説作曲家」 岡林信康、デビュー50年記念のアルバム - 東京新聞(2018年10月2日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/entertainment/news/CK2018100202000161.html
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一九六八年に「山谷ブルース」でデビューし今年で五十周年を迎えた岡林信康が、歩みをたどるセルフカバーアルバム「森羅十二象」を出した。収録の十二曲は、いずれも今の時代に響く歌ばかりだ。「フォークの神様」と呼ばれた岡林は、自身の歌を「ある種の普遍的なものに触れているのかもしれない」と語る。 (南拡大朗)
「俺が書いたん違うかも分からん、何や知らんが書けたんだ、というものが残っている。いいもの書いたぞ、という歌に限って大抵だめ。そんなもんですわ」
こうして生き残った曲は今回、山下洋輔矢野顕子サンボマスターといった多彩なミュージシャンにアレンジを委ねた。彼らとの共演で新たに歌が生まれ変わり、喜びもにじみ出る。
自分のことは「創作の人じゃない」と話す。「ドキュメンタリーというか私小説(の作家)というか。五十年たってもこの歌こういう意味あったんか、こういう味あったんかと言って聴いてもらえるんは、もともと“作っていない”からだと思う」と明かす。
今年七十二歳になり、三年近くかかった全国八十カ所の弾き語りツアーを春に終えたばかり。ギター一本で二時間のステージは衰えを直視せざるを得ず「簡単やと思っていたけれど、こんなにしんどいこととは」と正直に言う。ただ「年を取るのは、粋がって若者のように頑張ることやない。この旅のおかげで分かったことやね」とも話す。
そんな姿は、長年の畑仕事と関係がありそうだ。「反体制のシンボル」となり人気絶頂だった七一年、突然山村で隠とん生活を始めた。以来、短期間の中断を挟みながら四十年ほど続けている。
「錯覚を許してくれないな、農作業は。若い時に一日でできたことが三日も四日もかかる。でもそれで卑屈になるんじゃなくて、三日かけてやりゃええやんか、ということです。なんぼ岡林信康でも特別じゃないよ、と。それがいい」