<金口木舌>本紙投稿欄「琉歌や肝ぐすり」に国頭村での戦争体験を詠んだ歌が・・・ - 琉球新報(2018年8月15日)

https://ryukyushimpo.jp/column/entry-782306.html
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本紙投稿欄「琉歌や肝ぐすり」に国頭村での戦争体験を詠んだ歌が寄せられた。「戦世はあわれ 山おくにひなんかみ物がねらん そてつかだん」という作品だ。琉歌に詳しくなくとも歌意は理解できよう

▼戦中、山奥に避難したものの食糧不足に苦しみ、ソテツを食べたという戦争の悲惨さを詠んでいる。作者は常連投稿者のお一人、知花實さん、89歳。国頭村辺土名にお住まいである
▼先日、知花さんにお会いし、話を聞いた。8世帯30人で辺土名の山中に逃げたものの、たちまち食糧の芋がなくなり、ソテツを食べたという。米兵に捕らわれる恐怖と飢餓に苦しんだ避難生活は3カ月余続いた
▼餓えとマラリア禍に苦しんだやんばるの戦争を幾度か記事にしてきたが、知花さんの言葉が持つ力には到底及ばない。体験した者にしか分からない苦しみが、琉歌の30音から伝わってくる
▼沖縄の慰霊の日、広島、長崎の原爆投下の日、そして8月15日の終戦の日。それぞれの式典で歴代首相は犠牲者の冥福を祈り、平和を誓う式辞を読む。その時、厳かな空気を醸し出すが心には残らない。戦場の嘆きが伝わらないのだ
▼知花さんは穏やかな口調で「もう少しでパタイ(死ぬ)しよった」と振り返り、「戦世は駄目だよ。絶対、戦争は反対です」と念を押した。戦争を知る人の言葉の力がこれからも必要なのだと改めて思う。