報道陣も驚く安倍首相"原爆忌の印象操作" ギスギスした1日を塗り替える1葉 - PRESIDENT Online(2018年8月10日)

https://president.jp/articles/-/25902

安倍晋三首相が6日、首相官邸SNSアカウントで公開した写真と書き込みが物議をかもしている。広島で行われた「原爆の日」の平和記念式典に出席した際、被爆者代表と手を取り合う写真を掲載し、「『核兵器のない世界』の実現に努力する」などと書き込んだ。だが安倍首相はこの日、核兵器禁止条約に参加しない考えを通告して、参加を求める被爆者たちの失望と怒りを買っていた。手を取り合うシーンは、ごく一部にすぎない。これこそ安倍首相が野党批判で繰り返す「印象操作」ではないのか――。
昨年と異なり、今年は「原爆養護ホーム」を慰問
8月6日、広島は73回目の「原爆の日」を迎えた。広島市中区平和記念公園で開かれた平和記念式典には、安倍首相が参列し、献花・あいさつした。安倍首相はそのあと、被爆者代表らと意見交換し、記者会見に臨んでいる。ここまでは昨年の日程と同じだが、ことしは会見の後、原爆養護ホームで入園者を慰問した。
記者会見で安倍首相は核兵器禁止条約について「わが国の考え方とアプローチを異にしている。条約には参加しない立場に変わりはない」と明言した。従来の政府の姿勢をあらためて示したにすぎないが、唯一の被爆国の首相が、被爆者たちの要望を聞いた後に行った発言としては温もりに欠けている。
朝日新聞は翌7日朝刊で「核禁拒否 怒る広島」「『政府、誓いに背く態度』被爆者」と批判。毎日新聞は「見通せぬ世界の核軍縮」「『橋渡し役』日本、動きとれず」、東京新聞は「祈りと怒りの原爆忌」と報じている。
政権寄りの読売新聞、産経新聞には批判的な論調はなかったが、少なくとも被爆者たちの思いは、核禁止条約への参加にゼロ回答だった安倍首相に対し、失望し、不満を持ったことは間違いない。取材した記者たちも、安倍首相と被爆者の温度差を感じた。
SNSでは被爆者代表と寄り添う写真
ところが、である。
同日、首相官邸フェイスブック公式アカウントには「本年もまた8月6日を迎え、広島を訪れ、平和記念公園での式典に参列しました。原子爆弾の投下により犠牲となられた数多くの方々の御霊に謹んで哀悼の誠を捧げるとともに、広島の悲劇を決して繰り返してはならないとの決意を新たにいたしました。『ネバーギブアップで頑張っていく』20歳の時、広島で被爆した坪井さんの言葉です。唯一の戦争被爆国として、我が国は、核兵器国と非核兵器国双方の橋渡しに粘り強く努めながら、『核兵器のない世界』の実現に向けて、一層の努力を積み重ねてまいります」という書き込みとともに広島県原爆被害者団体協議会の坪井直理事長と手を取り合う写真を掲載している。ツイッターにも同じ写真をアップした。
この書き込みと写真を見れば、安倍首相と被爆者の間には絶対的な信頼関係があるように見える。実際、坪井氏は発言の後半、安倍首相に対し「たいしたもんですよ。身体がよく続くなあと。ますますこれからもがんばっていきたい」とエールを送る一幕はあった。
ただし、広島被爆者団体連絡会議の吉岡幸雄事務局長のように「これまで、この席で安倍内閣集団的自衛権の容認、憲法改悪の主張の抗議し撤回を求めました。残念ながら、今年も政府の態度は『安らかに眠って下さい 過ちは繰り返しませぬから』という平和記念公園の碑文の誓いにそむくものだ」と政府への不信を隠さない出席者もいた。
「よくもこのようなシーンを切り取ったものだ」
共産党小池晃書記長は「坪井直さんが『ネバーギブアップで頑張っていく』とおっしゃるのは、核兵器禁止条約に日本が署名、批准し核兵器の廃絶をその目で見届けるまでネバーギブアップで頑張るということ。被爆国の首相でありながらそれに反対する安倍首相への痛烈な一言。それを自らへのエールのように描く。あまりに卑劣」とツイート。坪井氏の発言を都合よく「つまみ食い」したと断じた。
安倍首相の広島入りを取材した現地の記者の間では「全体的には首相と被爆者たちのギスギスしたシーンが目立った1日だったのに」「ワンシーンをよくも切り取ったものだ」という驚き混じりのささやきも漏れたという。
安倍首相の「原爆の日」に対するこだわりのなさ
安倍首相は、国会などで、野党から「森友」「加計」問題などを追及されると「印象操作だ」「レッテル貼り」と言って反撃することが多い。しかし、被爆者の象徴的存在でもある坪井氏とのツーショットを政治的に利用したとすれば、こちらこそ「印象操作」「レッテル貼り」と言われても仕方ない。
安倍首相は広島、長崎の原爆忌など、過去の戦争の過ちに思いを巡らせる日へのこだわりは淡泊だ。8月9日、長崎の「原爆の日」に行われた式典に参加した際も、あいさつでは核兵器禁止条約について触れなかった。
2014年の8月6日のあいさつは、冒頭文が前年のあいさつとほぼ同じで「コピペだ」と批判されたことは記憶に新しい。これも、安倍首相の「原爆の日」に対するこだわりのなさが根底にある。
そういう姿勢について批判の声は当然、首相官邸にも届いている。9月の自民党総裁選を前に被爆者と寄り添う姿を見せ、リベラル層からも支持を得ようという思惑が6日のSNSでの書き込みにつながったとしても不思議ではない。
ただし、露骨な「印象操作」を続けると、安倍政権を支える保守層から失望される危険もある。岩盤とも言われる保守層は、リベラル層からの批判を受けてもぶれずに信じた道を進む安倍首相の姿を評価しているのだから。中途半端な施策は、むしろ双方の反発を招くだけだろう。