(余録)野球やサッカーばかりではない… - 毎日新聞(2018年7月23日)

https://mainichi.jp/articles/20180723/ddm/001/070/066000c
http://archive.today/2018.07.23-004431/https://mainichi.jp/articles/20180723/ddm/001/070/066000c

野球やサッカーばかりではない。書道、競技かるた、吹奏楽なぎなたもある。学校の部活動を題材にした映画やドラマが花盛りだ。一方、指導する教師の忙しさが指摘されて久しい。
富山県内の公立中学校に勤務し、2016年夏にくも膜下出血で死亡した40代の男性教師が過労死認定された。運動部の顧問で、発症直前2カ月の時間外勤務はそれぞれ120時間前後。このうち部活の指導が約7割に達し、土日の休みはほとんどなかったという。熱心な先生だったに違いない。
部活では教師だけでなく生徒の負担も重くなりがちだ。夏休みや冬休みは部活に拘束される時間がむしろ長くなる。大会で優勝すれば充実感もあるだろう。だが心身とも疲れ果ててしまう生徒がいる。彼らは小さいころから学習塾や習い事を掛け持ちするほど忙しい。
昭和ひとケタ生まれの作家、藤沢周平さんは故郷の山形で2年間、教師をしたことがある。「動機の何分の一かは、教師には夏休み、冬休みがあるということだった」とエッセーに書いている。
小学生の時に出会った恩師にも強い影響を受けた。若くて優しい兄のような担任だった。夏休みには20人ほどの生徒を連れて海辺の民宿に10日間以上泊まり込んだ。一緒に泳ぎ、合間に勉強し、布団の畳み方を教わったという。
藤沢さんは「教師になろうとしたとき、私は明らかに先生のことを考えていた」と記した。時代の移り変わりとともに教育現場にゆとりがなくなり、大事な時間が失われた気がする。