参院定数6増案 身を切る改革に逆行する - 琉球新報(2018年7月13日)

https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-760823.html
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参院議員定数を6増やす自民党提出の公職選挙法改正案が参院本会議で可決され、今国会中の成立が確実になった。選挙区の「合区」で押し出される候補者を救済したい自民党お手盛りにほかならない。
さらに、消費税導入を前に国会議員の「身を切る改革」の必要性が指摘される中、その流れに逆行するものだ。抜本的な1票の格差の是正にも程遠い。にもかかわらず自民党の党利党略を優先させて、全ての野党の反対を「数の力」で押し切った。
現行の比例代表は、候補者個人の得票で当落が決まる非拘束名簿式。この一部に優先的な当選順位を事前に決める拘束名簿式を採用するのが、比例代表の「特定枠」だ。
自民案は比例区に特定枠を設けた上で、定数を4増やす。合区した「鳥取・島根」「徳島・高知」の選挙区に擁立できない候補者を特定枠で救済するのが狙いだ。
そもそも1998年の参院選まで拘束名簿式だったのを変えたのは自民党だ。自民党は党員獲得数を名簿順位の判断材料にしていたが、当時の閣僚が企業に党費を肩代わりさせた問題が発覚するなど、名簿順を巡って熾烈(しれつ)な争いが繰り広げられた。そのために金のかからない選挙をうたい、2001年から非拘束名簿式に変えた。それをまた部分的に戻す。ご都合主義としか言いようがない。
16年の前回参院選で合区を導入したのは1票の格差を是正する策だった。しかし「特別枠」で合区の候補者を救済するとしたら元の人数に戻すのと同じで、格差是正につながらないのではないか。
改正案には、最も格差の開いた埼玉選挙区の定数を2増とすることで1票の格差を3倍未満に抑える措置も盛り込まれた。野党の中からは埼玉の2増を受け入れる一方で全体の定数は増やさない「2増2減」案も提出された。全国11ブロックの大選挙区制を提案するなど改革を目指す動きもあった。たった6時間の議論で結論が出せる問題ではない。与野党が議論を尽くして特別枠をやめ、抜本改革につながる案を出す必要があった。
参院の定数が増えるのは沖縄の日本復帰に伴う2増以外にはない。衆参両院では議員定数を減らす議論が長くされてきた。にもかかわらず、定数を増やすことへの納得のいく説明は委員会でもなかった。
このまま定数増すれば議員歳費も増える。世論の反発を予想し、自民は「参院全体の歳費が増大しないよう十分な検討を行う」との付帯決議を可決させたが、歳費を増大させないとは明言していない。自民、公明、民主3党が消費税増税方針に伴って約束したはずの「身を切る改革」はどうなるのか。
選挙制度は民主主義の根幹に関わる。それを政権党が好き勝手に変えてしまう。民主主義を揺るがす暴挙だ。