死後再審決定 鍵はまたも未提出証拠 - 東京新聞(2018年7月12日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018071202000191.html
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冤罪(えんざい)の疑いが強まったなら、たとえ本人が死亡した後でも救済をためらってはなるまい。日野町事件で大津地裁が異例の死後再審を認めた。抗告審ではなく、直ちに公開法廷で裁判のやり直しを。
三審制の裁判で確定した判決の重みは言うまでもないが、時に、その確定判決に誤りが見つかることも歴史が示す通りである。
冤罪を訴え、再審の扉をこじ開けるまでの道の険しさは「ラクダが針の穴を通るより難しい」と例えられてきた。ましてや死後再審となれば、極めて異例の救済手続きということになる。その死後再審を大津地裁が認めた。
それほど重大な疑義が確定判決に生じた、と裁判所自らが認めたわけである。検察官抗告で高裁での決着に先送りするのではなく、直ちに公開の法廷に舞台を移して裁判をやり直すべきだ。
無期懲役が確定し、服役中に死亡した阪原弘元受刑者を犯人と結び付ける直接証拠はなく、当初から、自白を裏付ける捜査や証拠の正当性が焦点だった。
一審の大津地裁は、自白の信用性は高くないとしながら状況証拠から有罪が認定できるとし、二審の大阪高裁は、逆に、自白の根幹部分が信用できるとして有罪認定を維持していた。
今回の大津地裁決定は、その自白について「殺害態様の点」「金庫発見場所の知情性を中心とする金庫強取の点」など四つの重要部分において信用性が大きく動揺した、と述べている。
例えば金庫については、原審では、阪原元受刑者が発見現場の山中まで捜査員を任意で案内した、とする「引き当て捜査」の調書が有罪の証拠とされていた。
ところが再審請求審では、検察側が新たに開示した手持ち証拠から意外な事実が判明した。
引き当て捜査で撮影した写真のネガフィルムを調べたところ、実際には帰り道で撮影した写真が現場に向かうときのものとして調書に添付されていたことが判明したのである。元受刑者は本当に案内できたのか。証拠捏造(ねつぞう)ではないのか。
法廷には提出されなかった検察側の手持ち証拠の扱いは、これまでの再審請求事件でも再三、問題になってきた。今回もまた、冤罪の疑いが強まる決め手の一つとなった。
教訓を生かす時ではないか。
今のように裁判官の職権、裁量に任せるのではなく、再審請求審のルールとして未提出証拠の全面開示を目指す必要があろう。