働き方法成立 懸念と課題が山積みだ - 朝日新聞(2018年6月30日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S13563398.html
http://archive.today/2018.06.29-222000/https://www.asahi.com/articles/DA3S13563398.html

安倍政権が今国会の最重要テーマに位置づけた働き方改革関連法が、多くの懸念と課題を残したまま成立した。
制度の乱用を防ぐための監督指導の徹底など47項目もの参院での付帯決議が、何よりこの法律の不備を物語る。本来なら、議論を尽くして必要な修正を加えるべきだった。
国会審議で浮き彫りになったのは、不誠実としか言いようのない政府の姿勢だ。比較できないデータをもとに、首相が「裁量労働制で働く方の労働時間は一般労働者よりも短い」と誤った説明をし、撤回に追い込まれた。その後も、法案作りの参考にした労働実態調査のデータに誤りが次々と見つかった。
一定年収以上の人を労働時間規制から外す高度プロフェッショナル制度高プロ)の必要性も説得力に欠ける。政府は当初、「働く人にもニーズがある」と説明した。しかし具体的な根拠を問われて示したのは、わずか12人からの聞き取り結果というお粗末さ。審議終盤、首相は「適用を望む労働者が多いから導入するのではない」と説明するほかなかった。
一方、これから答えを出さねばならない課題は山積みだ。
「この制度は本人の同意が必要で、望まない人には適用されない」と、首相は繰り返す。それをどのように担保するのか。
高プロと同じように、本人同意が条件になっている企画業務型の裁量労働制の違法適用が、野村不動産で昨年末に発覚したばかりだ。しかも、社員が過労死で亡くなるまで見抜けなかった。実効性のある歯止めをつくらねばならない。
省令など今後の制度設計に委ねられる部分は、ほかにも多い。政府は、高プロを「自由で柔軟な働き方」とするが、使用者が働く時間や場所を指示してはならないという規定は法律にない。適用対象業務を含め、労働政策審議会での徹底した議論が必要だ。
今回の法改正で、これまで労使が協定を結べば事実上無制限だった残業時間に、罰則付きの上限を設けることになったのは、働き過ぎ是正に向けた第一歩だろう。だが、この上限も繁忙月では100時間未満と、労災認定の目安ぎりぎりだ。さらなる時短の取り組みが欠かせない。
今回の改革の原点は、働く人たちの健康や暮らしを守ることである。その改革の実をどのようにあげるか。それぞれの職場の状況に応じた、労使の話し合いが重要となることは言うまでもない。