裁量労働制 断念で幕引きとするな - 東京新聞(2018年3月2日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018030202000180.html
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安倍晋三首相は、働き方改革関連法案から裁量労働制の対象業務を拡大する改正案を削除することを表明した。問題のある制度改正だ。当然である。だが、これで幕引きを図れるものではない。
「国民に疑念を抱かせた」
首相は、裁量労働制部分の法案からの削除についてこう述べた。今国会への提出も断念する。発言はその通りである。しかし、疑念は一向に解消していない。
一般の労働者よりこの制度で働く人の労働時間が短いとの不適切な比較データをなぜ厚生労働省が作成したのか。どんな意図で誰の指示があったのか。この制度による働き方についてどう考えているのか。政府は、この疑問に依然として十分に答えていない。
首相は国会で「きっちり実態把握をしない限り、政府全体として前に進めない」と制度に対する新たな調査を行う意向を示した。ならば、政府内でのデータ作成の経緯も調査し公表すべきだ。
対象業務の拡大は経済界が求めており、官邸主導で議論が進められた。政策の方向を決めてから厚労省労働政策審議会に諮られた経緯がある。労政審には今回問題となった比較データが提供されたわけではない。逆に議論に必要な情報が十分に提供されていたのか疑問も残る。
裁量労働制は、あらかじめ労使で労働時間と賃金を決める働き方だ。ブラック企業が悪用し長く働かせるケースが問題化している。国会ではこうした問題点や対策の議論こそ求められている。
政府は、労働時間規制から外す働き方で「残業代ゼロで働かせ放題になる」と批判のある高度プロフェッショナル制度高プロ)の創設は法案に盛り込む方針だ。首相は一日の国会で「柔軟な働き方を可能とし、生産性の向上につながっていく」と意義を強調した。
だが、労働者自身に働き方を決められる裁量がほとんどないのが実態ではないか。長時間労働が助長され過労死が増えると批判される点では、裁量労働制と同じだ。高プロ創設も法案から切り離し再考する必要がある。
関連法案は、多岐にわたる制度変更を盛り込んだ八本の法案を一本に束ねる。個々に議論を重ねるべき重要な制度が多い中で、一括して法案を通そうとする安倍政権の姿勢は乱暴にすぎる。
働き方は多くの人の生活に影響する。しかも二つの制度は働く人の命と健康に深くかかわる。政府はその重みをかみしめるべきだ。