特別支援学級、増える外国人児童 日本語の壁に学校苦悩 - 朝日新聞(2018年6月24日)

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外国人児童が多い学校でなぜ、外国人の子どもが高い割合で特別支援学級に在籍するのか。事情は学校によっても異なるが、背景には日本語が十分にできない子どもの増加で対応に苦労する学校現場の状況があるようだ。在日ブラジル人らの間でも、問題になりつつある。
愛知県豊田市の西保見小学校は全校児童252人(5月現在)のうち、約7割の171人が外国人で、そのうち約9割がブラジル人だ。今年度から4教室となった特別支援学級は22人が在籍し、このうち15人が外国人だ。
2月下旬には特別支援学級の子どもたちが輪になって、「次は、東山公園東山公園。降りますか? 降りませんか?」と電車に乗る練習をしていた。数日後に迫った遠足で、通常学級の子どもたちと集団行動するためだ。電車の切符の買い方や、バナナなど果物の買い物の練習もした。
特別支援学級の児童が全員、障害の診断を受けているわけではない。平吹洋子前校長は「日本語など言葉が出来ないことは、特別支援の対象」と語った。「発達障害かグレーゾーンの子もいるが、特別支援学級は少人数で自立訓練をするため、通常学級より伸びる子が多い」と話し、「ある程度自立できると、音楽や体育、社会科などで通常学級に戻る」と説明した。
これに対し、文部科学省特別支援教育課は日本語ができないことだけを理由に特別支援学級に入ることは「想定していない」という。4月に西保見小へ赴任した岡元敬子現校長も特別支援学級に入るには「(障害者)手帳や診断が下りている」ことが前提と言う。
ただ、多様な子どもを教えるために「人的な支援が多ければ多いほどいい」と言う。同校は日本語を教える国際学級が四つあり、ポルトガル語通訳が4人常駐するが、それでも手が回らない時もあるという。
愛知県みよし市の三好丘小学校は3月末現在、特別支援学級に12人が在籍し、3人が外国人。全員が障害の診断を受けているが、山内陽二校長は「日本語が十分に理解できないため、発達障害に似た振る舞いになることもあり、見分けが難しい」と語る。通常学級の外国人児童も、母国語の分かる人が付き添ったり、他の児童とは別に日本語を教えたりするのが望ましいという。特別支援学級の在籍が他校で増える背景には「ニーズが多い一方、人がいない現状もあるのでは」と山内校長も推測する。
外国人児童の障害の有無の判断の難しさを指摘する声は他にも多い。厚生労働省障害福祉課は「外国籍の子どもの存在は見落とされてきた」と認める。同省の研究班で「外国にルーツをもつ障害のある子どもの実態と支援」の調査を手がける豊田市福祉事業団理事長の高橋脩氏(71)は、「子育ての文化も違う外国人の子どもの行動を、日本人と同じ基準で評価していいのか戸惑う」と語る。
ブラジル在住の臨床心理士の中川郷子さん(61)は言葉の壁が大きいとみる。「発達障害かどうかを調べる際、日本語の質問には答えられなくても、ポルトガル語ならば答えられる子どももいる」と話す。子どもの将来にも影響するため、双方の言葉を理解して障害を判断できる人材の養成の必要性を訴える。
保護者の理解にも課題がある。愛知県の保見地区でブラジル人の子どもの支援をするNPO法人「トルシーダ」の伊東浄江さん(60)は「学校側は特別支援学級を説明したつもりでも、理解しないままに了承する親も多い」と話す。「少人数で丁寧に教える学級」と思い、後で「障害児のための学級」と知り、不満を覚える保護者もいるという。在日ブラジル人の間でも、こうした状況が問題になり始めている。ブラジル大使館は日本の学校に通うブラジル人の子どもたちの実態調査を行うため、昨年に研究者を公募し、現在は選定中という。(平山亜理)