参院選挙制度 自民案は露骨な党略だ - 朝日新聞(2018年6月7日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S13529397.html
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自民党がきのう、参院選挙制度の改革案をまとめた。懸案の「一票の格差」の是正より、現職の「保身」を優先させた内容で、「改正」の名に値しない。今国会で成立をめざすというが、認められない。
自民案は比例区で4、埼玉選挙区で2、定数を増やす。3年ごとの改選数は比例区が48から50に、埼玉は3から4になる。
さらに、個人名得票の多い順に当選する比例区に、各党が優先的に当選させられる特定枠を設ける。ここに自民党の露骨な党利党略が見える。
参院選では前回から「島根と鳥取」「徳島と高知」が合区した。この4県で来年、自民現職が1人ずつ改選を迎える。特定枠は「有為な人材確保」のためというが、選挙区から出られなくなる現職2人を比例区で救済する狙いがあからさまだ。
比例区はもともと、政党が当選順位を決めていた。それを約20年前、野党の反対を押し切って、得票順に当選する現行方式に変えたのは自民党だ。一部とはいえ、かつて否定した「政党による名簿順決定」の復活など、ご都合主義が過ぎる。
参院格差是正は長らく、総定数を増やさずに都市部と地方の定数の増減で対応してきた。13年選挙では「4増4減」、16年は「10増10減」のうえ合区を導入した。
自民党は今回、党内にも異論のある「定数増」を打ち出した。一票の格差は前回の3・08倍から2・98倍へ。3倍未満に収まるというが、埼玉選挙区で激戦を繰り広げる公明党への配慮がにじむ。
前回の定数是正の際、各党は改正公職選挙法の付則に19年選挙に向けて「抜本的な見直し」を検討し「必ず結論を得る」と書いた。自民案のいったいどこが抜本的な見直しなのか。
この間、自民党は「改憲による合区解消」を一方的に唱えてきた。強引な改憲案を降ろす代わりが、この案だ。民主主義の根幹にかかわる選挙制度の見直しを、こんな乱暴な議論で進めていいわけがない。
本来、選挙制度改革は衆参両院の役割分担を踏まえ、両院が一体的に取り組むべきだ。
参院については、既にいくつか改革案が示されている。選挙区を廃止し、全国を9ブロックの比例代表制にする。全国を10ブロック程度の大選挙区制にする。定数増の場合は議員の経費を大幅に削る、などだ。
来年の参院選まで残された時間は少ない。付則の約束を果たすため、各党は即刻、真剣に改革論議をすべきだ。