(筆洗)やくざ映画の言葉 - 東京新聞(2018年5月23日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2018052302000150.html
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斬られ役、殺され役から俳優としての地位を築いた川谷拓三さんに女優の梶芽衣子さんが、こんな質問をしたそうだ。「生まれ変わっても俳優をやりますか」
答えがふるっている。生まれ変わったときは「それはもう監督でんがな。それで深作を役者で使う」。深作とはもちろん「仁義なき戦い」などの深作欣二監督。川谷さんは深作さんお気に入りの俳優だったが、撮影では相当にしごかれたようで、お返しに役者として使いたいと。
半ば冗談であり、自分を厳しく育ててくれた深作さんへの愛情も感じられる言葉だが、この監督・コーチと選手の関係はどうだっただろうか。日大アメリカンフットボール部の悪質な反則行為。危険なタックルをした日大選手の昨日の記者会見からは監督・コーチがその選手に反則プレーをするように仕向けた過程が浮かんでくる。
「(相手を)つぶすんなら試合に出してやる」「できませんでしたではすまないぞ」「(相手が)けがをする方が得」
コーチの言葉にさむけがする。スポーツや大学とはあまりにかけ離れた冷酷な言葉。それは親分の指示で悪事をいとわぬ「鉄砲玉」の役で川谷さんが昔よく出演していた、やくざ映画の言葉であろう。
せめてもの救いはこの選手が反省し、事実関係を話す気になったことか。だが、生まれ変わったとしても、その大学のアメフット選手を選ぶまい。