(ここがおかしい 小林節が斬る!)たとえ正論ではあっても…いま場違いな「立憲的改憲論」 - 日刊ゲンダイ(2018年5月11日)

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小林節慶応大名誉教授
1949年生まれ。都立新宿高を経て慶大法学部卒。法学博士、弁護士。米ハーバード大法科大学院のロ客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。「朝まで生テレビ!」などに出演。憲法英米法の論客として知られる。14年の安保関連法制の国会審議の際、衆院憲法調査査会で「集団的自衛権の行使は違憲」と発言し、その後の国民的な反対運動の象徴的存在となる。「白熱講義! 日本国憲法改正」など著書多数。

もう20年以上も前であるが、改憲提案などは夢物語であった頃に、私は、白紙の上に新しい憲法を書く感覚で改憲論を提案していた。その中で、9条については、あの「どうにでも読める」または「難解な」現行9条の文言が、結局、規範力を生まず、政府による恣意的な解釈・運用を許していると気づいた。そこで、もっと明確に、できること(専守防衛)とできないこと(海外派兵)が読み取れるように、9条の文言を明確に「改正」することを提案した。私は、それを「護憲的改憲」と呼んで最近まで一貫して主張してきた。
数年前に枝野幸男代議士(立憲民主党代表)が同様の立場を表明し、今井一氏(「国民投票」に詳しいジャーナリスト)などもその論陣に加わった。最近は、それと同じ観点を「立憲的改憲」と称して、伊勢崎賢治氏(東京外国語大教授)らが強く唱道している。
もちろん、それはひとつの正論である。だが、今の政治情勢の中で、その主張を続けることを、私は、「場違い」「時知らず」だと思うに至り、今は自らに禁じている。
今は、改憲が自らの「使命」だと信じる安倍首相が、衆参各院の3分の2以上の支持を背景に9条の具体的な改憲案を示して政治日程が進行している状況にある。
だから今は、改憲派護憲派も、向かい合って自説の正当性を論じ合っている場合ではない。安倍首相の改憲案の1点に焦点を合わせて、それが是であるか非であるか?について各自の立場を決め、国民投票に備えるべき時である。
にもかかわらず、安倍首相と違い、自らの改憲提案を国民投票にかける権限も持たない論者が、代替案を掲げて、自説の正当性を主張し、他の護憲派と学説の違いをとらえて論争している時間とエネルギーの「無駄」が私は惜しいと思う。
今、喫緊の論点は、これまでは「必要・最小限」の自衛隊による「専守防衛」だから許される……と説明してきた政府が、これからは「必要」ならば「海外派兵」も許される……という改正案を掲げて主権者国民の判断を求めており、これに賛成か反対か? の1点である。それに答える責任が私たち全ての国民にあるはずだ。 (つづく)