(余録)映画「戦場のピアニスト」の主人公は… - 毎日新聞(2018年4月23日)

https://mainichi.jp/articles/20180423/ddm/001/070/191000c
http://archive.today/2018.04.23-002540/https://mainichi.jp/articles/20180423/ddm/001/070/191000c

映画「戦場のピアニスト」の主人公はユダヤ人だった。第二次世界大戦中のポーランドワルシャワを舞台に、6年に及ぶナチス・ドイツによる排斥と迫害から生き延びた実在の若いピアニストを描いた。
70年余を経て、現代版・戦場のピアニストと呼ばれるエイハム・アハマドさん(30)は、シリアに生まれ育ったパレスチナ難民3世だ。内戦でがれきと化したダマスカス郊外の町ヤルムークの路上で、「少しでも希望と喜びを」とピアノを奏で、人々を喜ばせた。
しかし3年前、ピアノは過激派組織の戦闘員に焼かれ、トルコやセルビアを経由しドイツへ難民として逃れた。現在、妻子と暮らし、独各地でコンサートを開き、戦争の悲惨さを弾き語りで訴えている。
彼を有名にしたのは、シリアにいたころ友人らが撮影し、インターネットで配信した動画だった。荒廃した街角で、ピアノに合わせて少女たちが明るく懸命に歌う。だが、故郷の町の人口は一時の15万人以上から、今や5000人に激減してしまった。
シリア内戦はこの春で8年目に入った。アサド政権軍や反体制派、有象無象の過激派に加え、大国の思惑が入り乱れ、戦いはやまない。死者は35万人以上、国外へ逃れた難民は560万人に達した。
このほど来日したエイハムさんは東京と広島で演奏し、日本人聴衆に語った。「シリアの人たちは助けを必要としています。戦争が遠くにあるものだと思ってほしくない」。今この時にも市民の犠牲が出ていることを忘れてはならない。

Siria: Yarmouk la canzone di Ahmad