(余録)東京・銀座の歩行者天国を歩いていると… - 毎日新聞(2017年12月17日)

https://mainichi.jp/articles/20171217/ddm/001/070/118000c
http://archive.is/2017.12.17-012447/https://mainichi.jp/articles/20171217/ddm/001/070/118000c

東京・銀座の歩行者天国を歩いていると、歌声が聞こえてきた。「So this is Christmas(クリスマスがきたね)……」。ジョン・レノンの「ハッピークリスマス」だった。
山野楽器本店が25日まで玄関にモミの木を飾り、イルミネーションの点灯にあわせて1日6回、曲を流している。「War is over! If you want it(戦争は終わる、君がそれを望むならば)」。歌が続き、子どもたちのコーラスが響いた。
何人かが足を止め、ツリーを見上げている。歌詞を口ずさむ中年の男性もいた。振り返ると、外国人の父親と娘が腕を組み、笑顔でリズムをとっていた。見ず知らずの人たちが一つの思いを共有しているような空気が、夕暮れの銀座を包んだ。
この曲は1971年12月に米国で発表された。当時、ベトナム戦争は隣国のラオスにも戦火を広げ、泥沼化していた。米国民は疲れ果てていた。ジョンは、みんなの声を集めて無益な戦争を終わらせよう、というメッセージを込めた。
しばらくして、ベトナムには平和が訪れた。しかし、地上から戦いや争いがなくなった喜びとともに、この曲を聞いたことがない。今年もシリアやソマリアなどで内戦が続き、多くの命が失われた。東アジアや中東には緊張が高まっている。
「ハッピークリスマス」が歌い継がれて40年以上、世界からきな臭さは消えていない。いまだに「いつの日にか」という願いとともに私たちはこの曲を口にしている。強く胸に迫るジョンの歌声は、ほろ苦い。