<守りたい 発達障害女児の支援> (中)身だしなみで自衛 - 東京新聞(2018年3月1日)


http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/201803/CK2018030102000201.html
https://megalodon.jp/2018-0301-1008-21/www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/201803/CK2018030102000201.html

スカートをはいた女の子の絵二枚が並んでいる。一枚は脚を開いて座り、もう一枚は閉じている。「下着が見えないように、閉じて座る方が正しいよ」。絵を見比べる女児たちに、女性スタッフが語りかけた。
着衣の乱れがきっかけで、発達障害がある女児が性被害に遭ってしまうこともある。身だしなみやマナーを身に付けることも危険を避けるのに必要だ。だが、発達障害がある子どもは男児が女児の四、五倍とされ、療育施設に通うのは男児が大半。女児に必要なことを教える療育施設も不足しているのが現状だ。
名古屋市昭和区発達障害児向け放課後等デイサービス「Luce(ルーチェ)」は、女児向けの療養プログラムを取り入れている施設の一つ。白を基調にした室内の壁紙や家具、天井のシャンデリアが、お姫様に憧れる女の子たちをウキウキさせる。来るのが楽しくなるようにという工夫の一つだ。
発達障害の子は、目からの情報は理解しやすいが、ある一部の情報を基に全体を想像するのが苦手な傾向があり、鏡を見て正面の姿は整えられるが、後ろ姿は分からない子が多い。そのため、ルーチェではスカートの後ろの裾がめくれていないか、髪が乱れていないかなどにも気を付けるように指導する。生理のときのナプキンの付け方や捨て方なども教える。
子どもたちはここに来るとまず、あいさつし靴を脱いでそろえる。準備が整ったら「お約束」を一人ずつ読む。「むやみに人に触りません」「服装に気を付けます」…。親と相談して決めた内容だ。施設長の藤原美保さん(48)は「この一連の動作をスムーズにこなせるようになるまでに何日もかかる子もいる」と話す。
プログラムは、個人のペースに合わせられるように四、五人の少人数グループで受ける。指導する専門スタッフは全員が女性。男性だと、性に関する話を「男性にも話していいこと」などと勘違いしてしまう恐れがあるからだ。
一年前から通う愛知県内の小学三年の女児(8つ)は、以前は他の発達障害児向け施設に通っていた。周囲は男児ばかり。一緒に過ごすと、周囲の言動がすり込まれる。友達を呼ぶときは「おい、おまえ」。話し言葉やしぐさは、どんどん男の子っぽくなった。母親(40)は「通えば通うほど『女の子なのになんでそんな話し方なの?』などと言われるようになり、行き場がなかった」と振り返る。
ルーチェに通うようになってからは、帰宅すると汚れ物は洗濯かごに入れるなど、身だしなみを気にするようになってきた。母親は「少しずつ自分自身のことを客観的に見られるようになり、しぐさや言葉遣いがかわいらしくなった」と目を細める。
ルーチェでは、送迎は親がすることにしている。スタッフは毎日、親の相談に乗ったり、注意点を伝えたりする。家庭と連携しないと、その子に合った療育の方法やタイミング、生まれ持った素質などは分からず、効果を最大限には引き出せないとの考えからだ。親の勉強会も定期的に開催し、理解を深め合っている。子どもの行動を理解できなかったり、障害を受け止めきれず、障害のない子に近づけようと力む親を客観的に見て、親子関係を修復することもある。
藤原さんはこう話す。「子どもに手がかかり、ゆっくりしたい親の気持ちは分かる。でも発達障害の子は、学習を積み上げるのに時間がかかる一方、崩れるのは早く、預けっぱなしでは効果は出づらい。日々の変化をしっかり見てほしい」 (花井康子)