不妊手術強制で国を提訴 尊厳めぐる重い問いかけ - 毎日新聞(2018年1月31日)

https://mainichi.jp/articles/20180131/ddm/005/070/169000c
http://archive.today/2018.01.31-004532/https://mainichi.jp/articles/20180131/ddm/005/070/169000c

人間としての尊厳を根本から問う重い問題提起だ。
優生保護法の下で不妊手術を強制された宮城県の女性がきのう、国を相手に損害賠償を求める初の訴訟を仙台地裁に起こした。
優生保護法は、戦後の食糧不足の中、「不良な子孫の出生防止」と、「母性の生命健康の保護」を目的として1948年に制定された。
障害を遺伝させない目的から、精神障害者ハンセン病患者らが強制的な不妊手術の対象となった。法に基づき手術を受けた人は、全国で約2万5000人とみられている。
憲法13条は、個人の尊重や幸福追求権、14条は法の下の平等を定める。旧優生保護法は、そうした憲法の規定に反するとの訴えだ。
法律自体が、障害者への差別や偏見を助長していたのは間違いない。
政府は、旧優生保護法が障害者差別に当たることを認め、96年に障害者への不妊手術の項目を削除し、母体保護法に改定した。
原告弁護団は、政府と国会の法改正後の対応も問うている。
2004年、当時の坂口力厚生労働相参院厚生労働委員会で、優生手術の実態調査や救済制度の導入について問われ、「そうした事実を今後どうしていくか私たちも考えていきたい」と述べた。だが、政府は今に至るまで、具体的な対応を取っておらず、国会も動いていない。
この問題については、国連の女性差別撤廃委員会などが、被害者への補償や救済を求めて勧告しているが、政府は「優生手術は当時、適法だった」として退けてきた。
障害を持った当事者は、声を上げられずに社会で孤立しているのではないか。そう原告弁護団は見ている。時間が経過し、被害が闇に埋もれてしまう恐れがある。
こうした差別的な現実は、原告弁護団などの活動を通じて一端が明らかになった。本紙の調査でも、9歳の女児が対象になったり、未成年者が半数を超えたりした事実が判明した。政府は、過去の優生手術の全容を調べたうえで開示すべきだ。
現在の人権感覚に照らせば、明らかに差別的な法律である。それがなぜ半世紀近くも維持されてきたのか。その歴史に社会全体で向き合わなければならない。