不妊手術の対象選んだ精神科医「まずいことに手貸した」 - 朝日新聞(2018年1月31日)

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かつての優生保護法のもと、障害を理由に不妊手術を強制された宮城県の女性が30日、国に賠償を求めて提訴した。不妊手術の対象者を選んだ経験がある精神科医岡田靖雄さん(86)=東京都=は、精神疾患と遺伝を関連づける優生保護法の問題点に後から気づいた。「自分はまずいことに手を貸した」。国は実態を調査し、手術を強いられた人に償うべきだと話す。
1960年代初め、岡田さんは都内の精神科病院開放病棟を担当していた。毎年決まった時期、不妊手術の対象者を挙げるよう医局の黒板に通知があった。ある年、知的障害の女性患者1人の名を書いた。恐らく30代。院内で男性患者と性交しているのを目撃され、妊娠を防ぐ必要があると判断した。
申請書類を自分が記入したのか、手術について女性にどう伝えたか、覚えていない。院内の外科医が執刀した手術に助手として立ち会った。「ごく当たり前のことをしただけだった」。当時、日本の医学界では精神疾患の原因は遺伝が大きいとする考えが強く、子どもを持つのは避けるべきだと思われていたという。
数年後、精神医療の歴史を学ぶうち法の問題点に気づき、精神疾患に関する著書で指摘した。賛同する医師はほぼいなかった。院内で議論された記憶もない。今回の裁判を通じ「精神科医や様々な立場の人たちが優生保護法の問題をどう考えていたのか、知りたい」と話す。
法に異議を唱えた数少ない精神科医の一人が、精神病理学者の野田正彰さん(73)=京都市。勤め先の病院などで、不妊手術を強いられた患者や精神疾患がある人の家族に出会い、遺伝を理由に結婚などで差別される実情を知った。
73年、雑誌に「優生保護法は、国が精神病への偏見をまず率先してつくり出している」と寄稿した。「医師も偏見をつくる源となったことを反省しなければならない」と野田さんはいう。(田中陽子