防衛資金、大学に食指 軍学共同の道(1) - 京都新聞(2017年12月19日)

http://www.kyoto-np.co.jp/environment/article/20171219000095
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湯川博士のメモ。「教育局(秘)関係書類一切焼却」などの文字がある=京都大基礎物理学研究所湯川記念館史料室所蔵

防衛省の外局「防衛装備庁」が軍事応用も可能な基礎研究に助成する「安全保障技術研究推進制度」が年数億円から110億円規模に増額されたが、京滋の主要大学のうち、2大学で研究者から応募相談が学内であったことが、このほど分かった。京滋に理系学部を置く主要12大学のうち、軍学共同研究を行わないと明確にしたのは5大学にとどまっている。平和利用と公開を掲げてきた戦後日本の科学を揺るがしている。
「ふるさとを軍事研究の場にさせない」。10月中旬、大津市の滋賀弁護士会館で滋賀県の学者や市民でつくる「軍学共同反対滋賀連絡会」が開いた講演会。滋賀県内6大学が防衛省の公募研究資金にどう対応しているか報告された。調査によると、「公募について大学に相談があったか」との設問に、滋賀県立大と長浜バイオ大で各1件あった。
滋賀連絡会は署名を募り、県内の各大学に制度反対を呼びかけた。立命館大と滋賀医科大は応募要項を学内公開していたが、撤回して削除した。滋賀県立大は今年1月、「人類の平和を脅かす研究を行わない」との基本理念を公表、軍学共同に反対だと明確化した。立命館大龍谷大は「教職員組合と軍事研究を行わないと確認」と回答した。
だが、戸惑う声もある。
「デュアルユースの問題があり、軍事研究の線引きは難しい。最終的には個人の良識」(滋賀大、滋賀医科大)との回答もあった。
滋賀連絡会の設問に合わせ、京都新聞社は京都に理系学部を置く主な大学にもアンケートした。
京都大、京都府立大京都産業大同志社大、府立医科大、京都工芸繊維大も、公募に「相談なし」と回答。公募要項を学内公開した大学はなかった。軍事研究について同大は受け入れない方針を定め、京大は「倫理基準や行動規範」の定めがないと回答。府立大は「特化した定めはないが、一般的な倫理規定は定めている」とした。
防衛装備庁は軍事と民生の両用に利用できる「デュアルユース」をうたう。本年度の応募は104件と昨年度(44件)から2倍超に。支給額も15年度の3億円から16年度は6億円、本年度は一気に、110億円と膨張が続く。
17年度に採択された代表機関はパナソニック日立製作所三菱重工業宇宙航空研究開発機構JAXA)など企業や公的研究機関が中心で、大学の採択は0件だった。だが、共同研究を担う分担研究機関として名前未公表の大学が5件も記載されている。京大出身の池内了・名古屋大名誉教授(宇宙物理学)は「批判の矢面にさらされる大学への『迂回(うかい)支給』とみてとれる。防衛省の資金が表に出ずに流れ、いつしか『軍産学複合体』となっていく」と懸念する。

■秘密にされた科学

秘密にされる科学。科学がもたらす大量殺人兵器。
七十数年前、京滋の大学が軍部に協力した過去がある。研究成果は公表されず、軍事機密とされた。
このほど明らかになった、ノーベル賞受賞者湯川秀樹博士の終戦の年の日記。8月25日付に「教授会」と記されている。京都帝国大が軍事協力の記録を闇に葬ることにした日。メディアでこれまで報じられていない同日付の自筆メモには「(秘) 関係書類一切焼却」と。