<検証 南スーダンPKO> (5)国を訴えた母 子が巻き込まれないため - 東京新聞(2017年12月24日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201712/CK2017122402000115.html
https://megalodon.jp/2017-1224-1222-17/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201712/CK2017122402000115.html

「現代戦闘とは『効率的な殺人』にほかならない」「全隊員に支給している救急品では対応できない」
南スーダンの国連平和維持活動(PKO)への派遣差し止めを国に求めた訴訟の第三回口頭弁論が十月十七日、札幌地裁であった。訴えたのは陸上自衛官の息子を持つ五十代の母親だ。平和への願いを込めて「平和子(たいらかずこ)」を名乗る。
原告席で弁護士の陳述に聞き入っていた平さんは閉廷後、「胸がつぶれる思い」と話した。
「息子は『災害救援で頑張る。いざというときには家族を守る』と誓って自衛官になった。南スーダンPKOは『日本の防衛』という本来任務からどんどん外れていっている」
平さんが裁判に訴えたのは二〇一六年三月に施行された安全保障関連法がきっかけ。自衛隊武装勢力に襲われた民間人を救出する「駆け付け警護」や他国の宿営地が襲撃された場合に守る「宿営地の共同防護」が可能になった。以前なら憲法違反の武力行使とみなされた任務だ。
南スーダンでは一三年末、宿営地付近で撃ち合いがあり、全隊員が防弾チョッキを着用した。一六年七月には「戦闘への巻き込まれに注意が必要」(日報)なほど事態が緊迫した。
息子は派遣されなかったが、自衛官の家族として「平和のうちに生存する権利」を侵害されたとして、国家賠償も求めている。
憲法前文に登場する「平和的生存権」はお題目ではなく、具体的権利性があると述べた判決がある。
〇八年四月十七日、自衛隊イラク派遣を巡り、名古屋高裁は「平和的生存権」に言及した。同時に判決は、航空自衛隊イラクで行っていた米兵空輸について「米軍の武力行使と一体化しており、憲法違反」との判断を示した。政府は米兵空輸を継続させたが、判決の八カ月後、全隊員が撤収して活動を終えた。
裁判長としてこの判決を出した青山邦夫さんは、同年三月末に依願退職し、当日は別の裁判長が判決文を代読した。その青山さんが弁護士として南スーダンPKO訴訟の原告側弁護団の中にいる。
今にも泣きだしそうな曇天の下、札幌地裁へ向かう青山さんに弁護団入りの理由を聞くと、「平さんがいるからです。裁判では『憲法違反だ』というだけでは足りず、具体的な損害を立証できないと勝てない。平さんは親として権利を主張できる」と答えが返ってきた。
弁護士として再び向かい合う憲法。「なし崩しが一番いけない。その意味で日本の戦後は、憲法をなし崩しにしてきた。法律家として見過ごすわけにはいかない」
被告の国側は、五月に部隊が撤収したことを理由に裁判所に門前払いを求めた。南スーダンでは現在も四人の幹部隊員がPKO司令部で活動を続けている。

 (半田滋)=おわり