改造内閣が始動 憲法守る政治、今度こそ - 東京新聞(2017年8月4日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017080402000136.html
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安倍晋三首相が内閣改造を行った。内閣支持率の続落を受けた政権の立て直しが狙いだが、憲法を尊重し、擁護するのか否か、政治姿勢が問われている。
第三次安倍第三次改造内閣が始動した。首相にとって第一、二次内閣を含めて八回目となる組閣は二〇一二年の政権復帰以降では、最も厳しい政治状況の中での改造人事ではなかったか。
昨年七月の参院選での自民党勝利で「安倍一強」は強固になったかに見えたが、今年に入り局面は一変。学校法人「森友学園」への国有地売却問題や「加計学園」の獣医学部新設問題、防衛省自衛隊の日報隠蔽(いんぺい)、防衛省自衛隊を選挙応援に政治利用する稲田朋美前防衛相の発言などが相次いだ。
◆真相の解明が先決だ
自民党は七月、四年前には大勝した東京都議選で惨敗を喫し、内閣支持率共同通信社の調査で30%台にまで落ち込んだ。今回の内閣改造には、その失地を回復する狙いがあるのだろう。
次の党総裁候補と目される岸田文雄前外相は政調会長として閣外に出たが、麻生太郎副総理兼財務相菅義偉官房長官ら内閣の骨格は変えず、初入閣は六人にとどめた。引き続き厳しい追及が予想される文科相には林芳正氏、防衛相には小野寺五典氏を配したことからも、その狙いがうかがえる。
林、小野寺両氏は一二年十二月に発足した第二次安倍内閣でそれぞれ農相、防衛相を務めた閣僚経験者でもあり、答弁能力も高いとされる。首相が二人を起用した理由は、分からなくもない。
ただ、安倍政権が国民の信頼を取り戻したいのなら、真相解明が先決のはずだ。
二つの学校法人の問題では、首相による関与の有無について真相は明らかになっていない。稲田氏が防衛省の日報隠蔽を了承していたのか否かも、証言が食い違う。
◆民主的手続きを軽視
林、小野寺両氏にはまず真相解明、次に再発防止に取り組んでほしい。今回の内閣改造によって、指摘された数々の問題の解明に幕を引くことがあってはならない。
野党側は憲法五三条に基づく臨時国会の召集や閉会中審査の開催を求めている。蓮舫代表の辞任表明を受けて民進党は次の代表選びに入っているが、安倍内閣は新しい代表が決まった後、速やかに臨時国会の召集に応じ、首相が所信を明らかにすべきである。
自民党は稲田氏を参考人招致しての閉会中審査を拒んでいるが、真相解明に依然、後ろ向きと断ぜざるを得ない。加計学園の加計孝太郎理事長を含め、関係者の参考人招致を引き続き求めたい。
ちょうど一年前の内閣改造を振り返ってみよう。
七月の参院選を経て、憲法改正に前向きな「改憲派」が、衆参両院で改正発議に必要な三分の二以上の議席を占めた。これを受け、私たちは社説で、憲法尊重・擁護義務を負う首相や閣僚が、現行憲法を蔑(ないがし)ろにするような言動を繰り返さないよう自覚を促した。
ところが、その後の政治はどうだろう。現行憲法を軽視または無視したり、民主主義の手続きを軽んじる政治がまかり通ってきた一年ではなかったか。
首相は自ら期限を切り、九条など項目まで指定して政治目標とする憲法改正を主導してきた。議論を深めるために「一石を投じた」と説明したが、自民党の歴代首相が憲法尊重・擁護義務に反するとして避けてきた「禁じ手」だ。
その一方、憲法に基づく野党側の臨時国会召集の要求は無視し続ける。改正したいからといって現行憲法を軽視・無視していい理由にはなるまい。
稲田氏による自衛隊の政治利用発言は、行政の政治的中立性を著しく逸脱する憲法に反する発言だが、首相は罷免要求を拒否した。稲田氏を重用してきたからだろうが、憲法に反する発言をした閣僚を擁護したことは、憲法を軽視する首相自身の姿勢を表すものだ。
首相は記者会見で「結果重視、仕事第一、実力本位の布陣を整えられた。政策課題に結果を出すことで信頼を回復する」と述べた。
◆政治姿勢改める必要
しかし、いくら内閣改造で体制を一新したからといって、憲法や民主主義の手続きを軽んじる政治姿勢を改めない限り、国民の信頼回復は望めまい。
共謀罪」法の成立強行を挙げるまでもなく、「安倍一強」の鎧(よろい)の下にあった憲法や民主的手続きを軽視・無視する強権的手法を国民が見抜いたからこそ、支持率が落ちた事実を注視すべきだろう。
憲法改正論議自体は否定しないが、国民から遊離した拙速な議論は避けるべきだ。現行憲法を蔑ろにする政治の継続はもちろん、許されてはならない。内閣改造を機に、あらためて指摘したい。