「大崎事件」再審決定 原口さん涙「ありがとう」 - 東京新聞(2017年6月29日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201706/CK2017062902000138.html
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逮捕から三十八年。無実を訴える叫びは再び司法を動かした。一九七九年に鹿児島県で起きた「大崎事件」の第三次再審請求で、鹿児島地裁は二十八日、原口アヤ子さん(90)の再審開始を認めた。八三年に再審無罪となった免田栄さん以来という二度目の再審開始決定に、原口さんは涙ぐみながら感謝を述べた。
二十八日午後一時半すぎ、鹿児島県志布志(しぶし)市にある待機先の宿泊施設で、原口さんは“二度目の再審開始決定”を支援者から伝えられた。車いすに座り、何度もうなずきながら涙を浮かべ「ありがとう、ありがとう」。弁護団からの電話にはっきりした口調で応えた。
歩くのもままならず、この日は裁判所に来ることもできなかった。それでも「無罪を勝ち取るまで死ねない」という信念で支援者とともに闘い続けている。
鹿児島県大崎町で育ち、一男二女に恵まれた暮らしは、一九七九年十月の事件で暗転した。「やったんだろう。他の三人がそう言っている」。先に逮捕された元夫ら親族が原口さんの関与を供述していた。原口さん自身も取り調べで机をたたかれたり、暴言を吐かれたりしたというが、全面否認を貫いた。
八一年に懲役十年が確定し、服役した。刑務所では模範囚。職員からは、刑期満了を待たずに仮出所できるよう、罪を認めることを勧められた。「やっていない。裁判で証明する」と拒み、無実を訴える手紙を弁護士らに出し続けた。
有罪の最大の根拠となった、親族らの自白。出所後、元夫を問いただすと「警察官の取り調べが厳しくて言ってしまった」と謝られた。元夫は九三年に病死。共犯とされた親族二人も二〇〇一年までに死亡した。
最初の再審請求だった〇二年、鹿児島地裁は「自白の信用性に疑問がある」として裁判のやり直しを認めた。でも、二年後に高裁で覆った。「これだけ言っているのに。なぜ分からないのか」。こみ上げる怒りに震えた。
現在は老人ホーム暮らし。訪れる娘や支援者に、声にならない声で無実を訴えることもある。今月十日、支援者宅で卒寿祝いの会が開かれた。「私は無実です。死ぬまで頑張ります」と自らつづった色紙を胸に抱き、今回の決定を前に決意を示していた。

◆供述心理学使い画期的
白鴎大の村岡啓一教授(刑事法)の話> 供述心理学の知見を用いて、自らの体験によらないまた聞き供述の信用性を否定した。これまでの再審開始決定事件と異なり、物証がなく供述証拠しかない事件に、自白や証言の信頼性について供述者の心理からアプローチする供述心理学を初めて適用したことは画期的だ。「疑わしきは被告人の利益に」との原則を当てはめた点を評価したい。自白した3人は知的能力に問題があり、弱い立場にある。権力に迎合せざるを得ない弱い立場の人たちの自白が非常に危険だということも改めて示した。捜査機関に自白の信用性を慎重に判断することを求めるものと言える。