個人情報 理解深め活用と保護を - 朝日新聞(2017年6月1日)

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さまざまな情報が活用される便利な社会にしたい。同時に自分の個人情報はしっかり守りたい――。このふたつの要請の両立をめざす改正個人情報保護法が施行された。12年ぶりの大幅な制度変更である。
この間、技術の進歩をうけて社会は大きく変わった。
例えば、大勢の人の買い物履歴を解析し、消費者の好みにあう商品を開発したり購入を勧めたりするビジネスが広がった。いわゆるビッグデータの活用だ。便利な半面、知らないうちに自分の情報がやり取りされ、思わぬ使われ方をするのではないかとの不安がつきまとう。
改正法は「匿名加工情報」という考えを導入。個人を特定できないように情報の一部に手を加えることを条件に、本人の同意がなくてもデータを外部に提供できるようにした。
基本ルールが示されたのは結構だが、「35歳男性」とするのか、それとも性別は省き、年齢も「30代」とするのかなど、具体的な加工方法は業界の判断に委ねられる部分が大きい。
それらをどう定め、情報を管理し、利用するか。消費者から苦情が寄せられた場合にどう対応するか。それぞれの業界で、わかりやすく公正な指針と窓口を整備してほしい。
懸念されるのは、旧法が施行された際に起き、今もあちこちでみられる過剰反応である。
町内会が会員名簿を作らなくなったのがその一例だ。しかし、災害などに備え、本人の同意を得たうえで、手助けが必要なお年寄りや体の不自由な人の情報を把握しておくことは、その人の命を守り、地域の安全を保つことにつながる。
国の個人情報保護委員会は、名簿作成の際の注意事項などをホームページにのせている。常識に沿った対応をしていれば、問題になることはまずない。疑問があれば事務局に問い合わせてもいい。その質問と答えがまた掲載されれば、全体の理解が深まっていくだろう。
過剰反応を戒めるべきは行政や警察も同じだ。
災害や事故のとき、被害者や行方不明者の氏名を一律に伏せることがしばしばある。安否情報が共有されないまま、混乱が続いた例が現にあった。また、報道を通じた事実の伝達が進まなければ、教訓を引き出し、ともにするのも難しくなる。
情報が円滑に流通し、人びとがアクセスすることによって、社会は強く、豊かになる。
活用と保護のバランスをどうとるか。試行錯誤を重ねながら答えを見いだしていきたい。