ニセ電話詐欺 10月から新宿区、警察署に65歳以上の区民名簿:東京 - 東京新聞(2018年8月28日)


http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyo/list/201808/CK2018082802000150.html
https://megalodon.jp/2018-0828-0852-36/www.tokyo-np.co.jp/article/tokyo/list/201808/CK2018082802000150.html


新宿区は10月から、区内にある牛込、新宿、戸塚、四谷の4警察署に65歳以上の区民の住所や氏名、生年が入った名簿を提供する。警察官が高齢者宅を戸別訪問、ニセ電話詐欺(特殊詐欺)被害の注意喚起をするのが目的だ。名簿は事前に高齢者に通知し、提供を希望しない人の意思を確認して作成するとしている。だが、法曹関係者らからは「プライバシーを侵害する」と反対の声がある。 (増井のぞみ)
警察署への名簿提供は今年六月の区情報公開・個人情報保護審議会が賛成多数で承認した。名簿の提供に関する四署との協定書は今月二十三日に締結。区によると昨年の区内でのニセ電話詐欺被害の認知件数は百三十件、金額は約二億九千万円と多く、被害者の86%は六十五歳以上という。吉住健一区長は「防犯活動に接する機会が少ない方にも警察官が直接注意喚起できる」と名簿提供の効果を期待した。
九月には、対象者約六万七千人にチラシと、名簿の提供を希望しない場合の回答書を郵送する。希望しない人を除外した名簿を作成、十月中旬に四警察署に提供する。
四署は名簿を基に署員が全戸訪問。本人の了承を得て電話機の留守番電話機能の設定や、自動通話録音機計八百台の貸し出しを行う。
一方、名簿提供には批判もある。人権擁護団体「自由人権協会」は、「プライバシー権を侵害し違憲」と反対声明を出した。「戸別訪問により特殊詐欺を効果的に防止できるとは、何ら客観的に明らかにされていない」とも指摘。第二東京弁護士会も、高齢者名簿の提供を直ちに中止することを求める会長声明を出し「区報やチラシのポスティングなどの代替手段がある」と指摘した。
◆「犯罪被害防止以外、使用しない」警視庁
ニセ電話詐欺対策で高齢者名簿を活用する必要性について、警視庁犯罪抑止対策本部の金井貴義副本部長(27日付で総務部参事官)は「詐欺被害を自分の事と思わず、『うちは大丈夫だ』と考える人は多い。戸別訪問で地道に呼び掛ける必要がある」と理解を求める。
街頭啓発では具体的な対策を取ってもらいづらいとして、昨年4月から、戸別訪問を全署で強化している。
主な対象は、平日昼間に電話に出る高齢者。だが、同庁には地域の高齢者を網羅した名簿はなく、自治体に協力を求めている。金井副本部長は「犯罪被害防止の目的以外に使用しないなど最大限の配慮をする」と述べた。 (福岡範行)

◆世田谷・墨田区 本人通知せず  23区 新宿含め6区提供
防犯目的での高齢者名簿の警察提供について本紙が二十三区に取材したところ、十月に始める新宿を含め六区が提供。世田谷と墨田は、本人に通知せず、地元警察署から依頼があれば名簿を提供していた。
世田谷は、高齢者の犯罪被害防止と交通事故防止を目的に二〇〇七年から昨年まで提供。七月時点で、区内の高齢者は約十八万人いる。
墨田は、ニセ電話詐欺被害を防ぐためとして一六年に約六万人分を提供した。担当者は「(区や警察の動きが公になると)警察の名前をかたった新たな詐欺を助長するおそれがあるので本人への通知は省略した」と説明。このほか、中野は新宿と同様、提供を希望しない人を除いた名簿を作り、目黒、江戸川は本人の同意を得た人のみ名簿に載せていた。
各区の個人情報保護条例では、審議会の意見を聴いて区が「必要」や「特に必要」と認めれば、本人の同意を得なくても個人情報を外部提供できる。
ただ、同意なしの名簿提供は過去に問題も起きている。千葉県野田市は一二〜一五年、警察に六十五歳以上の名簿を提供したが、市民からの異議申し立てを受け、提供を中止した。
狛江市も一四年、六十歳以上のみ世帯の名簿を調布署に提供したと広報紙で報告すると、苦情約百件が寄せられ、市は名簿をいったん回収。提供を希望しない人を除いた名簿を再提出した。