熱血!与良政談 狙いは9条の空文化か - 毎日新聞(2017年5月17日)

https://mainichi.jp/articles/20170517/dde/012/070/014000c?inb=ys
http://archive.is/2017.05.25-001232/https://mainichi.jp/articles/20170517/dde/012/070/014000c?inb=ys

安倍晋三首相が「憲法9条の1、2項を維持して自衛隊を明記する文言を追加する」と従来の自民党の考えと異なる改憲案を突如、提起して2週間たった。
その実現に向けた動きが驚くほどのスピードで進む。自民党内には年内に党の考えをまとめ、来年の通常国会(1年後!)で改正の国会発議を目指すとの声まで出ている。
石破茂前地方創生担当相は、首相=総裁の一言で長年の党内議論がひっくり返るのは「組織政党ではない」と批判するが、少数派だ。
今回、はっきりしたのは、首相は自民、公明、日本維新の会の3党だけの合意でも発議したいと考えていることだろう。
憲法改正は少なくとも与党と野党第1党の合意で国民に提案すべきだと私は思ってきたし、衆参両院の憲法審査会も幅広い合意を前提に議論してきたはずだ。ところが、それはあっさり覆されようとしている。
しかも首相側近は「高村正彦自民党副総裁が公明党北側一雄副代表と調整するのがいい」と言っている。安保法制と同様、水面下で話し合い、国会の表舞台に出てきた時には、他の意見を排して数で押し切るといういつもの手法なのだろう。
「読売新聞を熟読して」の答弁に象徴されるように、首相の国会軽視は今に始まった話ではない。野党議員も選挙で選ばれた国民の代表であることを首相は忘れていると思う。
「では、自衛隊をどんな形で明記するのか」に関しても早くも発言があった。首相に近い下村博文幹事長代行は「前条(9条)の規定は自衛隊を置くことを妨げるものではない」との文章を追加する案を示した。
既に安倍政権は憲法解釈を大きく変更して、限定的とはいえ集団的自衛権の行使を認めた安保法制を施行している。それに加えて9条の1、2項は自衛隊の設置を妨げないと念押しするというのだ。
これも一瞬、穏当で常識的に聞こえるが、前条に妨げられずに設置できるとは、自衛隊は何をしてもいいとも解釈できて、追加どころか1、2項が空文化される恐れが大きい。
最終的には国民投票に委ねられるからいいではないかと言うのかもしれない。だが既に手法も中身も、憲法そして民主政治の基盤を壊そうとしていると思う。(専門編集委員