(松尾貴史の『ちょっと違和感』)「読売新聞を熟読して」国会で報道機関を広報誌扱い - 毎日新聞(2017年5月14日)

増長を続ける安倍晋三氏は、改憲派の集会に「2020年を新しい憲法が施行される年にしたいと強く願う」旨のビデオメッセージを寄せた。衆議院予算委員会民進党長妻昭議員からその真意を問われて「国会における議論を活性化するため」などと答えたが、自身の改憲についての考え方を説明しようとしないことに関しては、「この場に立っていることは自民党総裁ではなく内閣総理大臣だから」と多重人格のようにはぐらかした。在任中は自民党総裁の立場であろうが、どこで何を言おうが、その人は総理大臣であり、国民の耳目に触れる言動は全て政治的メッセージであることは変わりがない。都合によって「今は総裁」「今は総理ね」と使い分けられては困る。公共のトイレに入ってきたおばさんが「今は男やから!」と言い訳するのとわけが違うのだ。

そもそも、総理大臣という役職は、憲法の遵守、擁護を義務付けられている。政権に返り咲く直前に「みっともない憲法ですよ」と公言していた人物が、総理大臣になって憲法を壊そうとしている。公私混同を平気でし続ける今の政権のもとでは、絶対に改憲は御免被りたい。

自民党改憲草案がどういうものか、ご存知ない方が多いのではないだろうか。「時代に合うように」「日本人だけの手で憲法を作る」と言っている人が多いけれども、「どういう内容か」を知らずに、政権の煽るムードに乗って「まあ賛成かな」などと思っている人が多いのではないだろうか。

昨年6月に刊行された『あたらしい憲法草案のはなし』(太郎次郎社エディタス刊)という本には自民党憲法草案についての解説がわかりやすく述べられている。とは言っても、これは自民党改憲案を読んで危機感を覚えた人たちがその問題点を知ってもらうために編まれた本なので、安心して(笑い)読める。次の選挙があるまでに、できるだけ多くの人たちに読んでほしいものだ。

あたらしい憲法草案のはなし

あたらしい憲法草案のはなし

権力の暴走に縛りをかけるための憲法を国民が国に尽くすよう縛りをかける内容に変えようとしているのが明白な草案で、これは多くの国民が知っておくべきものだが、選挙のたびに“憲法争点隠し”をして選挙中は「どこを変えるか集約していない。この選挙で問いようがない」と逃げていたのに、開票された途端「当然それ(改憲)を前提に票を入れていただいてる」「憲法改正するとずっと申し上げている。前文から全て見直したい」と、まるで「何もしないから」と女性を部屋に誘い込み、室内では「大人なんだし、そんなの前提で来たんだろ?」と嘯くジゴロのような態度を取っていたことも怪しからんと感じる。

長妻議員が「国会では自分の主張を言わず、報道やビデオでバンバン言うことに違和感を感じる。締め切りを設けるのもおかしい」とした上で、自民党改憲草案の中に含まれる、国民の不利益になる可能性が大きい項目を取り下げるのはどうかと質問すると、安倍氏は「自民党総裁としての考え方は読売新聞に相当詳しく書いてあるから、ぜひ熟読していただきたい」という世迷い言を放った。

これは大問題ではないか。国会軽視どころの話ではない。一番怒らなければいけないのは国民だけれど、新聞社の記者のみなさんもこれには抗議しなければならないのではないか。報道機関として国会で広報紙扱いされ私物化を表明されたのだから、これはもう報道機関としての尊厳を問われるところだろう。

片や、アメリカでは「大手メディアを信じるな」とつぶやく大統領。此方(こなた)、日本の「新聞を熟読してください」と放つ総理大臣。そう言えば、大叔父の佐藤栄作氏は総理大臣退任会見で「僕は国民に直接話したい、新聞は噓を書くから出て行け」と言ったことも、ついでに思い出した。

関連サイト)
Wordの履歴機能で、自民党が変えた憲法を見てみる(by ayumu) - editorium(2013年8月4日)  
http://editorium.jp/blog/2013/08/04/kenpo_jimin-souan/

現行憲法自民党憲法草案の違いは、自民党自身の草案PDFでも対照して表示されていて明確ではあるのですが、現行憲法のテキストと草案のテキストを並べて見比べないと、何を削って何を加えたのかがわかりません。
そこで、MS Wordの「校閲」機能の編集履歴保存と表示を使って、ひとつのテキストで変更箇所がわかるようにしてみました。
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HTML版も作成しました。ブラウザで見る、特にスマホで見る場合にはこちらがいいかも。
自民党による憲法の「変更履歴」HTML版
http://editorium.jp/kenpo/const.html