言わねばならないこと(91)戦前回帰の危うい選択 平和学者・木村朗さん - 東京新聞(2017年5月7日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/himitsuhogo/iwaneba/list/CK2017050702000214.html
http://archive.is/2017.05.08-000136/http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/himitsuhogo/iwaneba/list/CK2017050702000214.html

世界的規模で資本主義が行き詰まり、民主主義が危機に直面する中で、安倍政権は民主主義からファシズムへの移行、平和・民主国家から戦争・警察国家への転換という戦前回帰の危うい選択をしようとしている。それを物語っているのが、三権分立を否定する特定秘密保護法や、集団的自衛権行使を可能とする安全保障関連法という「戦争法」の制定、さらに「共謀罪」法案や緊急事態条項を含む改憲への動きだ。
また、中国や北朝鮮を敵視する安倍流の価値観外交は、アジア諸国との緊張をいたずらに高め、地域に再び戦火を招きかねない性格を秘めている。米韓両国で浮上している対北朝鮮先制攻撃論に同調するように国内で主張され始めた対敵基地攻撃能力保有論は、悪夢を現実にする恐れがある。
こうした戦争とファシズムが迫る時代状況の中で、沖縄は平和と民主主義を守る戦いの最前線となっている。山城博治・沖縄平和運動センター議長らの不当逮捕・長期拘束は、高江や辺野古で起きている異常事態を象徴した。まさに緊急事態条項導入と「共謀罪」創設の先取りといえる。法の支配を根源から否定する無法さ、理不尽さは許せない。
トランプ米政権の登場は、パックス・アメリカーナ(米国中心の世界平和)の衰退を意味する。日本にとっては対米自立の好機でもある。日本が今なすべきは、対米従属を深めることによる日米同盟の強化ではなく、対米自立による主体的な平和外交の実践。すなわち東アジア諸国との連帯と共生の実現だ。海兵隊をはじめとする在日米軍の撤退を中長期に見据えた上で、力によらない新たな安全保障構想が求められる。
<きむら・あきら> 1954年生まれ。鹿児島大教授(平和学)。東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会共同代表。共編著に「沖縄自立と東アジア共同体」(花伝社)など。