(余録)ある時、書家の金沢翔子さんが… - 毎日新聞(2017年3月26日)

http://mainichi.jp/articles/20170326/ddm/001/070/082000c
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ある時、書家の金沢翔子(しょうこ)さんが「お空、買って」とねだった。「どこで買えるの?」と母泰子(やすこ)さんが不思議がると、ダウン症の彼女は母の手を引いて町に出た。そこに空が売っていた。「空あり。100円」
NHK大河ドラマ平清盛」の題字などで知られる娘の書と、母の思いをつづった近著「心は天につながっている」(PHP研究所)にある話だ。時間貸し駐車場の空きを青い空と考えた娘を「私たちとははるかに異なる知性に恵まれている」と母は書く。
翔子さんの作品を集めた東日本・熊本地震復興支援展が来月2日まで、北九州市旧門司(もじ)税関ギャラリーで開かれている。先日は母娘のトークショーがあった。翔子さんは大好きなマイケル・ジャクソンの曲にあわせて踊り、会場をわかせた。
同じころ、フランスでダウン症の女性が長年の夢をかなえた。21歳のメラニーセガールさん。お天気キャスターとしてテレビ出演した。支援団体とともに始めた運動「メラニーはできる」に25万人以上が賛同し、国営放送局を動かした。
地図を指す仕草や各地の空模様を伝える原稿を懸命におぼえて番組に臨んだ。本番を終え、メラニーさんは「人とは違っているけれど、できることがたくさんあることを見てほしかった」と発信した。
泰子さんも書いている。「翔子にはできないということはないのです。今していることがやりたかったこと、今、手に入っているものが欲しかったものなのです。不満や不安、嘆きがないのです」。できないことよりも、できることに目を向けるのが大切だ。はるかに異なる知性を持つ彼女らに教わることは多い。

心は天につながっている

心は天につながっている