(余録)<時計の針の音がする… - 毎日新聞(2017年8月28日)

https://mainichi.jp/articles/20170828/ddm/001/070/082000c
http://archive.is/2017.08.28-000255/https://mainichi.jp/articles/20170828/ddm/001/070/082000c

<時計の針の音がする><洗濯機が作動する音>。そんな字幕が映し出される。韓国映画「きらめく拍手の音」は耳が不自由な人も楽しめるバリアフリーの映画だ。
苦労して育ててくれた父母はどちらも耳が聞こえない。両親の日常を、耳の聞こえる若い女性監督が追った。幼いころ両親から手話を習い、社会で言葉を学んだ。音の聞こえない世界とは−−。映画を通して近づきたかったのだろう。
バリアフリーという言葉を盛んに聞く。一人の車いすの女性の存在を知った。10年前、東京・渋谷の温泉施設の爆発事故に巻き込まれた池田君江さんだ。飲食店に車いすでの入店を断られた経験がある。それでも勇気を出して近所の串かつ屋に行くと、従業員が段差のある場所で車いすを持ち上げてくれたという。
「建物の構造上はバリアーがあっても周りの少しの心があれば」。池田さんはNPO法人「ココロのバリアフリー計画」をつくった。障害者が飲食店に行きやすくなるよう、インターネットで店に関する情報を発信している。
心のバリアフリーとは何だろうか。映画のラストで家族はカラオケに行く。母が歌謡曲を歌い、父はタンバリンをたたく。楽しいひと時だ。こんな時、拍手をしても両親には聞こえない。手を高く上げひらひらさせれば、きらめくような拍手になる。
映画館を出ると、耳の不自由な女性と健常者の女性が手話で感想を語り合っていた。手話を習う人が増えているという。東京パラリンピック開幕まで3年を切った。