(余録)食事をしていていきなりむせたとする… - 毎日新聞(2017年3月24日)

http://mainichi.jp/articles/20170324/ddm/001/070/125000c
http://archive.is/2017.03.24-013045/http://mainichi.jp/articles/20170324/ddm/001/070/125000c

食事をしていていきなりむせたとする。ちょっとあわてるだけではすまなかったのが、その証言にうそ偽りのないことを誓った鎌倉時代の裁判の関係者だった。むせたのは偽りがあった証拠とされ、厳罰を受けたり、所領を失ったりした。
先日の小欄で神仏への宣誓文を起(き)請(しょう)文(もん)と呼んだと紹介したが、実際にうそがないかは寺社に何日かこもって立証せねばならなかった。その間に病気になったり、体から出血したり、飲み食いでむせたりしたら、それが誓約にうそのあった証し−−「失(しつ)」とされたのだ。
「参籠起請(さんろうきしょう)」といわれる当時の神判、つまり神仏による裁きである。「失」はうそをついた者に神仏が下す罰と思われたのだが、人の証言の真偽を判定するのは今なお容易ではない(清水克行(しみずかつゆき)著「日本神判史」中公新書
森友学園理事長の籠池泰典(かごいけやすのり)氏は注目の国会証人喚問で安倍晋三(あべしんぞう)首相の昭恵(あきえ)夫人から100万円の寄付を受けたと語った。官房長官は直ちにこれを否定、真相は宙に浮いた形である。籠池氏は国有地売却や学校認可でも政治家や役人の実名を挙げていきさつを証言した。
「神風が吹いた」とは国有地売却の急進展に何かの力を感じたという籠池氏の言葉だった。これまで出ていた話との食い違いをいくつも明るみに出したその証言だ。そこに名の挙がった人には、宣誓証人の言葉の重さに見合った十分な説明をしてもらわねばならない。
ネズミに衣をかじられたり、カラスに尿をかけられたりしても「失」とされた昔だった。食い違う話の「失」はいずれにあるのか。ネズミやカラスには頼れない現代の国有財産にからむ真偽の判定だ。