(余録)中国の隋書倭国伝に… - 毎日新聞(2018年3月28日)

https://mainichi.jp/articles/20180328/ddm/001/070/144000c
http://archive.today/2018.03.28-003045/https://mainichi.jp/articles/20180328/ddm/001/070/144000c

中国の隋書倭国伝(ずいしょわこくでん)に7世紀日本の熱湯神判や蛇神判の記録がある。神判とは人の言葉の真偽を判定するのに神意を求めるもので、そのために熱湯や蛇の入ったかめに手を入れさせ、やけどや傷を負うかを見た。
言葉に偽りがなければ神意によってやけどや傷を負わないというわけだが、もちろんそうはいかない。盟神探湯(くかたち)と呼ばれた古代日本の熱湯神判では、人々がおじ気づいて結果的に不正が正されたというから、“効果”はあったようだ。
身の毛もよだつ神判の恐怖のないことは感謝せねばならない現代人だが、言葉を通した真実への接近が昔に比べ容易になったわけでもなさそうだ。ウソをつけば偽証罪という宣誓証言もくっきり真相を映し出してくれるとは限らない。
森友学園への国有地売却と決裁文書改ざんのキーマンである前財務省理財局長の佐川宣寿(さがわ・のぶひさ)氏の注目の証人喚問である。だが大方が予想した通り、改ざんの経緯や理由については「刑事訴追の恐れがある」として証言拒否をくり返した。
その一方で改ざんへの首相やその周辺の指示ははっきり否定。また虚偽と批判された昨年の答弁は正しかったと述べ、国有地売却には首相や夫人の影響はなかったと断じた。改ざんの実態は語らずに、政権の関与だけは否定したのだ。
結局は木で鼻をくくったような昨年の答弁をまた聞かされた気がする。肝心の国有地の不当廉売とその記録改ざんの核心解明へ、誰にも分かる証言を必要なだけ集めねばならぬ神判なき民主主義国の議会だ。