(筆洗)大人がもっとすてきな世でありたい。未来の大人のために。 - 東京新聞(2017年1月17日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017011702000128.html
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<おとなから幸せになろう>−。魅力ある広告コピーは読む人をちょっとだけどきっとさせるものか。ほどよき「どきっ」がなければ広告として人の目を引くことはできないし心に残らぬ。冒頭のコピーは<幸福は、ごはんが炊かれる場所にある。>などの岩崎俊一さんの一九九二年の作品である。
どきっの理由は幸せになる順が大人からで本当にいいのかというためらいを感じるせいか。無論、コピーの趣旨は大人最優先や子どもを蔑(ないがし)ろにする身勝手さとは無縁である。
子どもはやがて大人になる。その手本、将来の姿として、大人こそが幸せになるべきだという考えである。なるほど大人がうれしそうな顔をしていなければ、子どもはその大人になりたいとは願うまい。
これも、子どもが大人になることをおそれる話である。また違法残業による犠牲者である。三菱電機が入社一年目の男性社員に労使協定を超える残業をさせていたとして、会社と当時の上司一人が書類送検された。
その証言を読むのが苦しい。一カ月以上休めない。不眠を訴えても仕事は減らない。上司の「中学生でもできるぞ」の言葉。男性は心を病んだ。そこに幸せの形は見つからない。
<大人っていうのはもっとすてきなんだ>。ジャックスの「ラブ・ジェネレーション」(作詞・早川義夫)。大人がもっとすてきな世でありたい。未来の大人のために。