真珠湾訪問 「戦後」は終わらない - 朝日新聞(2016年12月29日)

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旧日本軍による奇襲から75年。米ハワイの真珠湾を訪問中の安倍首相がオバマ大統領と演説し、かつての敵味方による「和解の力」を訴えた。
「戦争の惨禍は、二度と繰り返してはならない」「戦後70年間に及ぶ平和国家としての歩みに静かな誇りを感じながら、この不動の方針を貫いていく」
首相はそう語り、「未来」に向けて不戦の決意を強調した。
一方で、抜け落ちていたのは「過去」への視線である。
真珠湾攻撃を、さらには日米のみならずアジア太平洋地域の国々に甚大な犠牲をもたらした先の戦争をどう振り返り、どう歴史に位置づけるか。演説はほとんど触れていない。
未来こそ大事だ、反省を繰り返す必要はない。首相はそう考えているのかもしれない。
真珠湾攻撃から半世紀の1991年、当時の渡辺美智雄副総理・外相は「我が国の過去の行為に対し深く反省します」とする談話を発表した。
安倍首相自身も昨年4月、米議会での演説で「先の大戦に対する痛切な反省」や「アジア諸国民に苦しみを与えた事実」に言及した。
だが、未来志向は、過去を乗り越える不断の努力のうえに成り立つ。日米の首脳がともに世界に語りかける絶好の機会に、先の戦争をどう総括するか、日本のリーダーとして発信しなかったことは残念でならない。

アジアへの視線も希薄だ。
太平洋戦争は日米だけの戦争だったわけではない。米英などとの開戦は、満州事変以来の10年に及ぶ中国への侵略や、その行き詰まりを打開するための東南アジアへの武力進出から生まれた。アジアの人々にも悲惨な犠牲を強いたことを忘れてはならない。
首相がハワイに出発した翌日、安倍政権は沖縄県の反対を振り切って、名護市辺野古での埋め立て工事を再開した。
全国の米軍専用施設の7割が沖縄に集中する現状も、真珠湾攻撃に端を発した米国との戦争のひとつの帰結である。
演説で首相は日米同盟を「希望の同盟」と自賛したが、沖縄には触れなかった。
日米の「和解」は強調するのに、過重な基地負担にあえぐ沖縄との和解には背を向ける。そんな首相の姿勢は、納得できるものではない。
首相は、今回の演説で戦後を終わらせたかったのだろう。
だが逆に印象に残ったのは、過去を語らず、沖縄の声を聞かず、「美しい未来」を強調しようとする首相の姿である。