(筆洗)巨大な「金食い虫」が、この国を蝕んでいる - 東京新聞(2016年12月22日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016122202000151.html
http://megalodon.jp/2016-1222-0917-12/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016122202000151.html

腹の虫が治まらぬ。虫が好かない。虫の居所が悪い。虫が知らせる。虫が良すぎる…と、日本語の表現では、「虫」が大活躍する。いったい、この「虫」とは何なのか。
そんな疑問に挑んだ労作『「腹の虫」の研究』(長谷川雅雄ほか著)によると、かつて日本では、身中の虫が、心の病も含めて、さまざまな病気を引き起こすと考えられていた。病だけでなく、怒りや好悪など心をかき乱す感情を引き起こすのも、虫の仕業とされた。
怒りに駆られているのは、「私」なのに、あえて「腹の虫が治まらぬ」と考えることで、自らの感情を突き放してとらえることができる。それによって不快な感情をやわらげ、心理的な安定を保つ働きも「腹の虫」にはあるらしい。
そんな効用もある虫ではあるが、どうにも腹の虫が治まらぬのは、政府の原子力政策だ。福島の原発事故の対策費が十一兆円から倍する見込みとなり、一部を国民に負担させるという。「東電が払いきれぬので、ツケは皆で」とは、虫が良すぎる。
きのうは、一兆円余を費やした高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃炉が決まったが、過去の検証は棚上げにしたまま、いくらかかるか、いつ実現できるか見通せぬ核燃料サイクルには巨費を投じ続けると言うのだから、筋が通らぬ。
財政難なのに、兆の単位の税を食らう。巨大な「金食い虫」が、この国を蝕(むしば)んでいるのだ。