改憲論ペテンを暴く「空恐ろしい自民党の憲法観(1)」(小林節慶大名誉教授) - 日刊ゲンダイ(2016年12月8日)

基本的人権の尊重、国民主権、平和主義は堅持」の詭弁
衆参両院の憲法審査会が久しぶりに再開された。
そこでの議論を報道で見て、自民党の主張には、本当に驚かされてしまった。
それによれば、上川陽子代議士は、「(現行)憲法の基本原理である基本的人権の尊重、国民主権、平和主義……を変更することは憲法改正の限界を超える。(これら)基本原理は堅持した上で、建設的な憲法改正論議を進めることが肝要だ」と語ったそうである。
しかし、まず、現行憲法の21条では「一切の表現の自由は保障する」と無条件で表現の自由が保障されている。表現の自由は私たちの自由な生活と民主主義の不可欠な前提であり、それを「優越的人権」とすることは自由主義世界の常識になっている。
それに対して、自民党改憲草案では、21条に2項を新設して、「前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動……は認められない」と、要するに中国憲法と同じ構造になっている。そして、この「公益」と「公の秩序」は一次的には政府が認定する以上、自民党が目指す憲法の下では治安維持法の制定も可能である。このどこが「基本的人権の尊重」なのか? むしろ、人権の否定以外の何ものでもない。
また、憲法9条が「軍隊の保持」と「交戦権の行使」を禁じているため、わが国は国際法上の戦争に参加する資格がなく、結果として平和が守られてきた。それに対して、自民党の新9条案では海外派兵が解禁されている。このどこが「平和主義」なのか? むしろこういう姿勢を軍国主義と呼ぶはずである。
さらに、現行憲法99条は、憲法尊重擁護義務を負う者は政治家以下の公務員(つまり権力担当者)だと明記している。ところが、自民党改憲草案102条では、国民大衆こそが憲法尊重義務を負わされ、それを政治家以下の公務員が管理(擁護)する関係に変わる。このどこが「国民主権」なのか? むしろ権力者主権であろう。
全く、開いた口が塞がらない。
事は国の在り方、つまり私たち国民の幸・不幸に関わる大問題である。もっと誠実に議論に臨んでもらいたい。