日印原子力協定 被爆国への信頼なくす - 東京新聞(2016年11月15日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016111502000134.html
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政府がインドとの原子力協定に署名した。核兵器を持ちながら核拡散防止条約(NPT)に加盟しないインドに原発輸出の道を開いたのは、核不拡散の理念に逆行する行為ではないか。
協定では、インドが核実験をした場合は協力を中止すると確認したが、間接的な表現にとどまり、しかも協定本文ではなく別文書に記載された。使用済みの核燃料の再処理は平和利用に限定すると定めたが、国際原子力機関IAEA)の査察対象は民生用だけで、軍事転用の有無を完全に証明するのは難しい。
インドは一九九八年を最後に核実験の一時停止(モラトリアム)を続けている。日本側はインドがこれまで核物質や技術を他国に拡散させていないと判断し、既に米国など主要先進国原発と関連技術の対インド輸出を解禁したことも踏まえて、協定署名に踏み切った。日印接近で、権益拡大を図る中国をけん制する狙いもあった。
だが、インドはやはり核を保有するパキスタンと対立し、中国のほぼ全域に届く弾道ミサイルを開発して、軍事大国への道を歩んでいる。
何よりも、日本がNPTに未加盟のインドに対し、原発と関連技術を輸出するのは、危機に直面する核軍縮・不拡散体制をいっそう弱体化する恐れがある。
被爆者や脱原発団体は協定に抗議し、広島、長崎両市長も懸念する談話を発表した。国際社会が被爆国・日本に対して寄せる共感や信頼は、徐々に失われてしまうだろう。
人口約十三億人、経済成長を続けるインドは、深刻な電力不足の解消と、温室効果ガス削減を迫られ、原発増設に積極的だ。日本側には、福島第一原発の事故後、海外に活路を求めたい経済界の意向があった。
だが、経済交流の利点にばかり目を向けると、軍縮、不拡散という、日本が取り組むべき本質が見えなくなる。
オバマ米大統領が五月に広島を訪問し、同行した安倍首相も核廃絶への誓いを新たにした。ところが十月には、国連総会の委員会が核兵器禁止条約の制定を目指して交渉を始めるという決議案を採択したが、日本は反対した。核保有国の参加が見込めない条約を論議しても、現実的ではないとの判断だった。
核の悲惨さを伝える被爆者の高齢化が進む一方で、日本の核政策はいっそう矛盾を深めている。