太陽や風は決して請求書をよこさない 独シュタインマイヤー外相 本紙寄稿 - 東京新聞(2016年10月29日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201610/CK2016102902000142.html
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脱原発政策を進めるドイツのシュタインマイヤー外相(60)が本紙に寄稿した。原子力発電の「高い潜在リスク」を指摘、再生可能エネルギーへの転換を訴え、温室効果ガス削減に向けた「新たな道」を共に切り開いていくよう、日本に呼び掛けている。(編集委員・熊倉逸男)
タイトルは「世界規模のエネルギーシフト(転換)−太陽や風は決して請求書をよこさない−」。
エネルギーシフトは、原子力に頼らず、再生可能エネルギーで供給を賄う政策だと説明。ドイツでの萌芽(ほうが)は、一九八六年の旧ソ連チェルノブイリ原発事故(現ウクライナ)にさかのぼるとした。放射性物質の降下を恐れ、雨の日に屋外で遊べず、牛乳が飲めなくなるなど不安が広がり、環境に配慮したエネルギーへの転換を求める意識が高まった。東日本大震災の直後に起きた二〇一一年三月の東京電力福島第一原発事故で「決定的な影響」を受け、脱原発の表明に至ったと、経緯を振り返った。
二二年末までに全ての原発の稼働を停止し、五〇年までにエネルギー消費を半減させ、再生可能エネルギースマートグリッド(次世代送電網)への移行を目指すとの目標を確認した。
再生可能エネルギーの研究開発により、ドイツでは三十七万人超の雇用を創出し、エネルギーの効率化で産業界のコスト削減につながったと、経済効果も強調した。
国際的にも、地球温暖化対策の新たな枠組み「パリ協定」への合意が広がり、エネルギーシフトの潮流は勢いを増していると主張。日本でも、多くの自治体でエネルギーシフトへの関心が高く、対話が望まれていると指摘し、「全力を尽くして支援していきたい」と述べた。
外相の寄稿に関連したドイツのエネルギーシフトや日本との協力を考える「日独シンポジウム 温暖化対策と地方創生」(在日ドイツ大使館など主催)が来月二日午前九時半から、東京都港区赤坂のドイツ文化会館で開かれる。参加無料。申し込みはドイツ日本研究所のホームページ=https://www.dijtokyo.org/ja/=から。

<フランクワルター・シュタインマイヤー外相> 1956年1月、ドイツ西部デトモルト生まれ。大学で法学と政治学を学び、司法試験に合格。75年、中道左派社会民主党に入党。シュレーダー前首相の側近となり、首相府長官を務め、メルケル首相率いるキリスト教民主同盟との大連立政権で2005年11月から09年10月まで外相。連邦議会社民党院内総務を経て、13年12月から外相再任。
西ドイツは戦後の経済成長に伴い一九六〇年代、各地に原発を建設。ワインのためブドウを栽培する農家を中心に反対が広がり、環境保護活動が活発化し、八〇年、緑の党を結成した。八六年のチェルノブイリ原発事故後に躍進した。ドイツ統一後、旧東ドイツ市民グループと合流し90年連合・緑の党となった。
九八年、中道左派社会民主党は90年連合・緑の党との連立政権を発足させ、大手電力会社との合意を取り付け二〇二二年ごろまでの脱原発を決めた。
〇九年に発足したメルケル首相率いるキリスト教民主同盟を中心とした保守中道政権は、産業界の要請で、原発の稼働期間を平均十二年間延長する改正法を施行。しかし、その三カ月後に起きた福島第一原発事故を目の当たりにし、幅広い分野の専門家らによる倫理委員会の提言をもとに、二二年末までの脱原発方針へとかじを切った。

<パリ協定> 京都議定書に代わる地球温暖化対策の新たな枠組み。昨年12月に採択された。今世紀後半に二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出を「実質ゼロ」にし、産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑えるのが目標。各国が自主目標を掲げ互いに検証する。批准国が55カ国以上、排出量の合計が世界の55%以上との要件を満たし、11月4日の発効が決まった。協定の第1回締約国会議が同15日に開かれる。日本は批准手続きが遅れ、正式メンバーとして参加できない。