やまゆり園事件で「憲章」可決 県議会 短期間の審議「さらに内容拡充を」:神奈川 - 東京新聞(2016年10月15日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/list/201610/CK2016101502000126.html
http://megalodon.jp/2016-1015-1649-34/www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/list/201610/CK2016101502000126.html

「憲章は、共生社会の実現に向けた第一歩」−。相模原市緑区の県立知的障害者施設「津久井やまゆり園」での殺傷事件を踏まえ、障害者差別や偏見をなくそうと共生理念を掲げた「ともに生きる社会かながわ憲章」は十四日、県議会本会議で全会一致で可決された。障害福祉関係者らは意義を評価する一方、発案から議決まで短期間での審議だったこともあり「理念を形にする取り組みが重要だ」と指摘する。 (原昌志、梅野光春)
憲章は今月六日の予算委員会自民党が発案し、黒岩祐治知事が策定の方針を表明。「メッセージを一日でも早く示す」と訴え、議会側は厚生委員会で障害者団体の代表らを招いて参考人質疑を行うなど審議を重ねた。ただ案文が議会に提案されたのは十三日で、複数の会派から「急ぎすぎでは」との指摘があった。
策定された憲章では「この悲しみを力に、ともに生きる社会を」とうたい、「私たち」が取り組む四項目として「誰もがその人らしく暮らすことのできる地域社会を実現します」「憲章の実現に向けて、県民総ぐるみで取り組みます」などと掲げる。ただ、理念をどう周知、共有するかの具体的な取り組みについては、現時点で、県は広報紙などによる周知を掲げているだけだ。
こうした課題を踏まえ、この日の本会議の賛成討論でも各会派の温度差がみられた。自民党の守屋輝彦氏は「タイミングを失っては意味がない」と評価し、民進党の長友克洋氏も「広く県民とともに考える機会が持てなかったことは残念だが、目指すべき方向性は揺るぎない」と訴えた。
一方、公明党の西村恭仁子氏は、文面に具体的な行動指針が盛り込まれていないとして、「完全性という面では物足りなさを覚える。今後さらに内容を検証しつつ拡充を」と指摘。共産党の井坂新哉氏も「障害者当事者の参加が不十分で、二度と同じ轍(てつ)を踏んではならない」と注文をつけた。
黒岩知事は「事件が風化する前に、アクションを起こすことが大事だと思いスピード感を重視した。その分、県民意見を幅広くうかがう時間がなかった指摘はその通り。これから皆さんとの対話を通じて克服したい」と話した。
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県議会は十四日、憲章案のほか、津久井やまゆり園の施設建て替えに向けた基本構想策定費、二〇二〇年東京五輪セーリング競技開催に伴う江の島大橋改修設計費の一般会計補正予算案などを可決した。

◆障害者団体関係者ら「当事者の声反映して」
「憲章で示された4項目を誰がどうやって実現するのかが課題」。県議会で議決された憲章を読み、知的障害者の当事者団体「ピープルファースト横浜」(横浜市保土ケ谷区)で支援活動をする大川貴志さん(38)はこう指摘した。
大川さんは「障害者が地域で暮らせるように、住民が受け入れる環境づくりを進めてほしい。憲章に基づいて動きだす中で、当事者の声を吸い上げる方法も考えないと」と注文する。
県議会厚生常任委員会参考人として憲章づくりに意見を述べたルーテル学院大学大学院の市川一宏教授(地域福祉学)も「憲章は実践が伴ってこそ生きたものになる。地域や生活に根差した活動が必要だ」と、今後の動きに注目する。
共生社会へのスタートとして憲章を定めた姿勢は好意的に受け止める。「行政や議会、住民、当事者、ボランティアなど多様な人たちを『私たち』という言葉で表現し、『ともに生きる社会』を協働してつくる決意を示した」と話した。