過労死・自殺 残業時間には上限制を - 東京新聞(2016年10月12日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016101202000151.html
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政府は初の過労死等防止対策白書を閣議決定した。過労死、過労自殺は後を絶たない。政府は働き方改革の議論を進めているが、過労死に直結する長時間労働の抑制は最優先に取り組むべき課題だ。
また、痛ましい過労自殺が明らかになった。
「仕事も人生もとてもつらい。今までありがとう」。社宅から飛び降りる直前、母親にこうしたメールを送っていた。
広告大手の電通に勤めていた入社一年目の女性社員=当時(24)=が昨年、クリスマスの日に自ら命を絶った。
労働基準監督署が認定した月の残業時間は、過労死ライン(月八十時間)を大幅に上回る約百五時間に達していた。遺族側によると「君の残業時間の二十時間は会社にとって無駄」「髪がボサボサ、目が充血したまま出勤するな」など、上司からパワハラとも取れる発言もあったという。
過労死防止を「国の責務」と明記した過労死等防止対策推進法が施行されたのは一昨年。同法を基に白書がとりまとめられた。
白書のコラムで、夫が過労自殺した「全国過労死を考える家族の会」代表の寺西笑子(えみこ)さんは「過労死は減るどころか増え続け、近年は若年層に広がる。過労死ゼロ社会実現をめざしたい」と訴える。
日本の長時間労働は先進国の中でも最悪の水準にある。白書によると、過労死・過労自殺をあわせた労災認定件数は近年二百件前後で高止まりしている。厚生労働省のアンケートによると、回答があった約千七百社のうち過労死ラインを超えて残業をした正社員がいる企業が昨年度、二割超だった。
政府は先月末、首相が議長を務める働き方改革実現会議を発足させた。賃金格差をなくす「同一労働同一賃金」や高齢者の就労促進などの検討課題が並ぶが、まず取り組むべきは長時間労働の抑制である。命を守る対策に、猶予は許されない。
野党は先の国会で、残業時間の上限規制や、一日の勤務を終えてから次の勤務につくまでの間に一定時間以上の休息をとらなければならないとするインターバル規制を、罰則付きで導入する法案を提出した。
両規制はフランスやドイツなどではすでに導入されている。経済界には「事業の柔軟性を失う」と反対する声もあるが、社員を守れない会社があっていいわけがない。政・官・財合わせた徹底した取り組みは急務である。