過労死対策5年 なお働き過ぎている - 東京新聞(2019年11月9日)

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過労死等防止対策推進法が施行されて十一月で五年がたった。この間、政府は長時間労働の是正を目指し取り組みをしてきたが、その効果はまだ限定的だ。過労死撲滅へさらに対策を進めたい。
過重な働き方で健康を害したり命をなくす例は後を絶たない。過労死撲滅へ道のりは半ばだ。
推進法はその撲滅を目的に、政府が取り組むべき対策を掲げている。過労で家族を失った家族会が中心となり制定された。防止対策を国の責務と位置付けた。
施行後、政府は監督・指導の強化や、対策に取り組む企業の紹介、教育現場での知識普及などに取り組んできた。
残業時間規制や有給休暇の促進など関連法を整備し「働き方改革」も進めている。
過労死等防止対策白書によると、確かに週六十時間以上の勤務をする人は二〇一八年で6・9%と年々減っている。残業抑制に効果がある終業から次の始業まで一定の休息時間を確保する勤務間インターバル制度を取り入れる企業は一九年調査で3・7%と前年より倍増した。だが、政府の数値目標にはいずれも届いていない。
社会全体を見回してもフルタイムで働く人の年間実労働時間は二千時間超のままだ。厚生労働省が一八年に実施した重点監督では対象企業の約三割で違法な時間外労働があった。
結果として脳・心臓疾患や精神障害で労災認定を受けた会社員の過労死・過労自殺は一八年で百五十八人と高止まりしている。
さらに、気になるのは労災の請求件数だ。脳・心臓疾患と精神障害を合わせた申請は一八年で約二千七百件と、毎年増えている。
依然として働き過ぎている。過労に苦しめられる人が増えている事実は無視できない。
政府が引き続き対策に力を入れるべきなのは言うまでもない。安倍晋三首相は国会で、労災の「過労死ライン」の基準見直しを表明した。実態に即して見直されればより多くの人が労災と認定されるし、過重な働かせ方へのけん制にもなる。早急な検討を求める。
企業にも要望したい。長時間労働の削減だけでなく過労に追い詰めるパワハラなどハラスメントのない職場づくりを進めてほしい。
自社の残業を減らすために取引先に無理に短い納期を迫る「しわ寄せ」をなくすため業界全体の協力も不可欠だ。それが企業の成長にもつながるはずだ。