長時間労働 春闘で改善につなげよ - 毎日新聞(2017年1月21日)

http://mainichi.jp/articles/20170121/ddm/005/070/124000c
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経団連は2017年春闘に向けた「経営労働政策特別委員会報告」(経労委報告)で、長時間労働の改善を打ち出した。正社員の賃上げばかりが争点だったかつての春闘とは大きな変わりようだ。連合も「長時間労働撲滅」を掲げている。
過労死・過労自殺は相次いでおり、長時間労働の改善に取り組む姿勢は評価したい。ただ、現行法でも労働時間の規制はありながら、労使合意で規制を外し、長時間残業が横行する実態を招いているのだ。
現在、政府は労働基準法改正を検討しているが、抜け道のない労働時間規制を定める必要があることを改めて指摘したい。
経労委報告では、年次有給休暇(年休)の100%取得を目標に取り組むこと、長時間労働是正の数値目標を掲げることを各社に要請した。
これまでも事前には長時間労働是正や非正規雇用の待遇改善などが掲げられたが、実際の労使交渉では正社員の賃上げにしのぎを削るということが繰り返されてきた。単なるスローガンではなく、春闘で具体的な改善策について協議し、成果を見せる必要がある。
経労委報告が発表された日、厚生労働省長時間労働が疑われる約1万事業所に対する監督指導の実施結果を公表した。違法な時間外労働が確認されて是正・改善指導を受けたのは4416事業所(43・9%)に上り、この8割近くで「過労死ライン」とされる月80時間を超える残業があった。
経営者は必要に応じて残業や出張を労働者に命じることを望み、労働者も残業で割増賃金を得られることを歓迎してきたと言われる。こうした労使の思惑が長時間残業の慣行を形成し、多くの企業に根を下ろしているのだ。労使の合意に基づく慣行では個々の労働者を守ることはできない。政府が厳しい法規制を設けることがやはり必要だ。
また、経団連は4年連続となる賃上げを各社に呼びかけた。そのために「生産性の向上、イノベーションの創造が欠かせない」と強調する。日本の企業は不要な残業や長時間の会議などが多く、先進諸国の中では就業者1人あたりの国内総生産(GDP)の数値が低いことが指摘されている。社員が長時間働く割には利益が上がっていないというのだ。
個々の社員の労働時間を減らしながら賃上げを実施するのは容易ではない。しかし、生産性が上がらないことを長時間残業の理由にすることはもはや許されない。
働く人の命や健康を守り、ゆとりある生活を実現するための労働時間こそ最優先の基準とすべきだ。そのための春闘にしなければならない。