早期解散論 憲法よりも党利党略か - 東京新聞(2016年10月12日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016101202000152.html
http://megalodon.jp/2016-1012-0906-43/www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016101202000152.html

衆院補選が告示されたが、政権内では衆院の「解散風」が吹き始めた。来年前半までの解散なら、一票の不平等は「違憲状態」のままだ。憲法よりも党利党略を優先すれば、傲慢(ごうまん)の誹(そし)りは免れまい。
きのう告示されたのは、東京都知事選に立候補した小池百合子氏の議員失職に伴う衆院東京10区と鳩山邦夫総務相の死去に伴う同福岡6区の二つの補欠選挙参院選後初の国政選挙で、九月に就任した蓮舫民進党代表には初陣だが、政権内では補選前から年内もしくは年明け早々の衆院解散論が取り沙汰されている。
政権が早期解散を望む大きな理由の一つが、衆院選挙区画定審議会が来年五月二十七日までに小選挙区の新しい区割りを首相に勧告することだろう。
今年五月に成立した改正公職選挙法などで小選挙区の定数は三重、奈良など六県で各一減、比例代表は北陸信越、近畿など四ブロックで各一減となった。勧告を受けた法改正、有権者への周知期間を経て、新しい小選挙区割りに移行するのは早くても来夏以降だ。
自民党は減員対象区に多くの現職議員を抱える。解散が新しい区割りへの移行後なら候補者調整が必要となるが、移行前の早期解散なら、そうした難題は先送りできる、との判断もあるのだろう。
しかし、新しい区割りは二〇一四年の衆院選での一票の不平等を「違憲状態」とした最高裁判決を受けたものだ。現行の区割りのまま解散すれば、「違憲状態」の議員が再び選ばれることになる。
憲法上の正当性が問われるような国会議員に法案を審議したり、ましてや憲法改正を議論する資格があろうはずがない。
司法の憲法判断よりも与党の事情を優先させる政権の振る舞いが許されては、決してならない。
早期解散論浮上の背景には蓮舫民進党の選挙準備が整わない時期の方が与党に有利との判断や、来年夏の東京都議選を重視する公明党への配慮もあるのだろう。
衆院解散は首相の専権事項とされてきたが、憲法よりも党利党略を優先する解散が本当に国民のためになるのか。
英国では一一年、首相の解散権が「封印」された。野党が一方的に不利な立場となり「公平性を欠く」との世論が高まったためだ。
日本は小選挙区制や党首討論など「ウェストミンスター・システム」と呼ばれる英国の議会制度を手本としてきた。首相の解散権についても見習ったらどうか。