福祉用具レンタルの原則自己負担方針 本紙報道に反響続々 - 東京新聞(2016年8月19日)


http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201608/CK2016081902000121.html
http://megalodon.jp/2016-0819-0919-34/www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201608/CK2016081902000121.html

福祉の充実に使うと言っていたお金はどこへ−。要介護度の軽い人たちについて、福祉用具レンタルを原則自己負担化するとの財務省案。利用者から悲鳴が上がっていると三日の本紙朝刊暮らし面が伝えたところ、読者らから反響が相次いだ。安倍政権が掲げる「一億総活躍」に反し弱者いじめそのものでは、というのだ。 (編集委員・白鳥龍也)

記事では、車いすや段差解消用のリフトを月五千五百円(一割)の負担で利用する高齢男性の例を紹介した。東京都八王子市の七十代女性からは本紙読者部に「レンタル代が十倍になったら(年額)六十万円を超える。老後が心配」と、電話で意見が寄せられた。
本紙編集局の各部が設けるツイッターなど交流サイトには記事の転載をした参加者が「自己負担できない人はどうする」といった書き込みをした。「高齢者の甘え」とする声もあったが「(政府は)弱い者いじめばかり」「(弱者切り捨ての)この状態なのに『一億総活躍社会』を推し進めるって」と批判が多かった。
「通院や外出、日常生活に著しい支障が出る。状態が悪化し寝たきりとかになってしまいそう」など政策効果を疑問視する声も。「軽度者」への用具貸与のため政府が介護保険から給付しているのはことし二月分で九十五億円。介護保険全体の1・4%にすぎない。
事業者団体の日本福祉用具供給協会が、利用者約五百人に行った調査では、用具利用以前は半数以上が転倒を経験していたが、利用後は九割以上で転倒の不安が軽減したという。一方、用具が使えなくなったら、種類によっては25%の人が「訪問介護を依頼する」と回答。これを基に、国全体で訪問介護の費用がどのくらい増えるか試算したところ、低くとも年間千三百七十億円のコスト増になり、介護人材も新たに十万人以上必要になるとはじいた。
脳出血で左半身まひとなったが、車いす介護タクシーで片道一時間の通院や買い物もこなす盛岡市の内村タヱさん(68)=要介護2=は「車いすは体の一部。全額負担になったら家さこもって暗くなってなくちゃいけないんだべなと思ってる。現場をちゃんと見て決めて」と訴える。

◆介護軽度者を見直し
政府が二〇一五年六月に閣議決定した「骨太の方針」は福祉用具のレンタルを含む軽度者向けサービスの見直しを明記。政府は訪問介護の生活援助やバリアフリー化の住宅改修費の見直しも検討している。財務省介護保険の給付から外し、一部還付も念頭に置いた原則自己負担を主張。厚生労働省社会保障審議会介護保険部会は年内の結論を目指し議論を進めている。
本紙は三日暮らし面で「対象の高齢者から悲鳴が上がっている」との記事を掲載。車いす生活の七十六歳の女性が「用具がなければ(家事や外出などが)全部できなくなり、認知症になりかねない」と不安がる様子などを紹介した。

関連サイト)
つなごう医療 中日メディカルサイト | 介護保険福祉用具レンタル 全額自己負担方針に悲鳴 - 中日新聞(2016年8月4日)

http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20160804132544675
http://megalodon.jp/2016-0819-0923-39/iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20160804132544675

介護保険の費用抑制のため、政府内で検討が進む要介護度が軽い人へのサービス見直しのうち、特に身近な福祉用具レンタルの全額自己負担化方針に、対象の高齢者から悲鳴が上がっている。当事者らには「用具を使って行動できるからこそ、元気でいられる」「生活を壊さないで」との思いが共通しており、「政府方針は逆に重度者を増やす」と主張する。 (白鳥龍也)

「年金暮らしで、福祉用具の全額負担はあまりに厳しい。私のような人を家に閉じ込めないで」。兵庫県西宮市の女性(76)は、語気強く訴える。
変形性股関節症が悪化し、二〇〇八年に左足を切断して以来、車いすの生活。ただ「気ままに暮らしたい」と、長男夫婦宅の近くで独居し、大半の家事をこなすほか、友人との観劇や茶会に積極的に出掛け、要支援2を維持している。「用具がなければ全部ができなくなり、認知症になりかねない」と不安がる。
ヘルニア手術の後遺症で、五十年前に下半身まひになった盛岡市吉田義夫さん(85)は、車いすや段差解消用のリフトを器用に扱い、一人で散歩や買い物に行くのが楽しみ。四年前に腸の手術をした後は要介護5だったが、現在は2。ケアマネジャーの資格を持つ長女幸子さん(52)は「月約五千五百円の用具レンタル代が十倍になったら、負担はとても無理。といって用具がなければ、私が仕事を辞めて面倒を見なければならなくなる」と頭を抱える。
介護保険を利用してレンタルできるのは、トイレやベッドに設置できる手すり、歩行器、車いす、電動ベッドなど十一種。一割負担の場合、車いすだと一般には月に数百円で借りられ、利用者にとっては在宅で自立生活を続けるのに大きな手助けとなっている。
厚生労働省の統計によると、一六年二月に介護保険福祉用具をレンタルしたのは百八十四万人。うち政府側が要介護度が軽いとみなす要支援1、2と要介護1、2の人(軽度者)は百十四万人で六割を占める。一方、それらの人への福祉用具貸与のための給付費は九十五億円で、介護保険全体からみれば1・4%にすぎない。
レンタル事業者らでつくる日本福祉用具供給協会が昨年、日常的に用具を利用する約五百人に「用具が利用できなくなったらどうするか」を尋ねたところ「介助者を依頼する」「行動をあきらめる」との回答が多数を占めた。協会の小野木孝二理事長は「用具が使えなくなると、家族の介護負担が増すか本人の行動が抑制され心身状態が悪化する恐れがある。そうなると訪問介護の費用も人材も余計に必要になる。福祉用具貸与は費用対効果が大きいサービスだ」と強調する。
日本ケアマネジメント学会の服部万里子副理事長は「軽度者のサービス切り捨ては、頑張って生きてきた高齢者の人生を今後はお金で買えということ。できない人は人生そのものを変えられてしまう。介護保険制度の信頼が根本から崩れる」と指摘している。

<軽度者のサービス見直し> 2015年6月閣議決定の「骨太の方針」に明記され、政府側は17年に法改正、18年4月から介護保険制度および介護報酬改定に合わせ実施−を目指す。財務省は、福祉用具貸与のほか訪問介護の生活援助、バリアフリー化の住宅改修を介護保険の給付から外して原則自己負担にすることを提唱。厚労省社会保障審議会介護保険部会で年内の結論を目指し、詰めの論議を進めている。